【新春特別インタビュー】変わることができるか
オオキ建築事務所 代表 大木啓幹

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スマート遊技機は、果たしてパチンコ業界に何をもたらすのか。これを契機として持続的に成長できる産業に変わることができるのか。ホール建築の第一人者、オオキ建築事務所の大木啓幹社長に聞いた。

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─パチンコ業界の有史以来、初めてとなる玉・メダルのないスマート遊技機の導入が始まりました。どう捉えていますか。

スマート遊技機の「本質的な価値」を理解することが重要だと思います。スマート遊技機は、導入される以前からとかく遊技性能やスペック中心で語られることが多い印象です。しかし、それと同等あるいはそれ以上のレベルで考えるべきなのは、パチンコホールという空間そのものを根本から変えることができる可能性を秘めているということです。

─どういうことでしょうか。

スマート遊技機は玉・メダルがなく単独で稼働させることができるため、「島」という概念をなくすことができます。それは、パチンコホールという空間をもっと自由に設計・デザインできるようになることを意味します。

これまでのパチンコホールは、玉・メダルを補給するための島設備が必要不可欠であったため、遊技者が横一列に並んで打つというスタイルをずっと続けてきました。その光景は、極端に言えば作業をさせられているようにも映ります。また、遊技している人以外は島通路に入らなければ台を正面から見ることができません。中通路からは台の側面しか目に入らず、ワクワク感というものを創出しにくい構造でもありました。

今は社会が目まぐるしく進化、変容し、人々はスマートフォンを持ち歩く時代です。遊技人口が減少の一途にあることは、昔から変わらないそうした空間が受け入れられなくなっていることが要因にあると思います。そこから脱却することができれば、新しいユーザーを取り込める可能性は大いにあると思います。島は一度レイアウトをすると移動させることができませんでしたが、その足かせがなくなることで、例えばラスベガスをはじめとした世界のカジノのように訪れるたびに遊技機のレイアウトを変えることができ、常に新鮮で驚きを感じさせる空間にすることもできる。つまり、スマート遊技機によってやっと世界のゲーミングの水準に近づくことができるのではないかと思います。

企業の持続的成長を考えれば地域と共生する思想に至る

─具体的にはどのような空間づくりが必要になるのでしょうか。

パチンコがより幅広い層に受け入れられるには、メニュー構成が豊富にあることが大切だと思います。ラスベガスを中心とする世界のカジノ産業が一時期の低迷を乗り越え、現在、幅広い層から支持されるのは、施設全体としてエンターテイメントに大きく舵を切り、楽しみのメニューを豊富に揃えたからです。

パチンコホールにおいても、新しいメニューとして従来の遊技機にスマート遊技機が加わることで、空間そのものでもっとエンターテイメント性を創出し、訪れた人にワクワク感を与えられるようになると思います。単にスマート遊技機を導入すればいいとか、小規模の店でも使えるとか、そういう話ではありません。ゲームセンターの延長のようにしたところで、すぐに飽きられてしまうと思います。

─より幅広い層に受け入れられるようになるためには、企業の姿勢も今後より重要になってきそうです。

地域と共生するという想いや姿勢が大切ではないでしょうか。短期的に利益を稼ぐことを目的とした「投資」ではなく、持続的な成長を志向する「事業」としてパチンコホールを考えれば、地域に根ざして共生をすることが必要であり、そのために地域に還元するという思想に至ると思います。

パチンコホールを災害時の避難施設として活用できるようにしようという経営者が増えているのは、地域共生の取り組みとしてとても素晴らしいことだと思います。そうした長期的視野に立った災害時の拠点づくりも非常に大事ですが、それに加えて、日常的にできる地域共生のあり方をもっと模索することも必要ではないでしょうか。

そのためには、パチンコホールそのものがもっと地域に受け入れられるようになってほしいと思います。とくに建物は人のイメージや印象を左右します。地域の人たちがその建物をみたときに心が和んだり、抵抗なく施設に入って、気軽にトイレや飲食店を利用できたり、そんな建物や空間にしていくことが大事なのだと思います。

また、地方には高齢者が集まれる場所が少なく、パチンコホールがその受け皿になっている面がありますが、それだけで終わってしまってはもったいないと感じます。スマート遊技機を機に、島という固定された空間のデザインから、新しい空間を創れる可能性がありますし、エンターテイメント施設として豊富なメニューを用意することで、幅広い客層が集まってくると思います。それが結果として地域との共生となり、持続的な成長にも道が拓けるのではないでしょうか。

─業界は変わることができるのでしょうか。

変わることができるか、それともできないのか、今回のスマート遊技機の登場はまさに分かれ目の時期であると思います。

大木 啓幹 hiromoto ooki
オオキ建築事務所代表 一級建築士

大型複合施設・商業施設・ホテル施設・温浴施設・住宅等の建築デザインを手掛ける。近年はアメリカ、イタリア、イギリス、フランスの各国の建築賞を受賞。コロナ禍初期の2020年3月に「パチンコホールは3密に当たらない」とする提言を行い、パチンコホールの換気能力の高さを内外に向けて実証した。

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