各メーカーが“1Gあたりの純増枚数”を競うようになったところで登場した『エージェントクライシス』。ここからAT機が中心となっていきます。
・【お盆企画】パチスロ5号機のトレンド変遷の考察(1)2005年~2007年
・【お盆企画】パチスロ5号機のトレンド変遷の考察(2)2008~2010年・
・【お盆企画】パチスロ5号機のトレンド変遷の考察(3)2011年
ここまでの5号機の歴史を見るように、色目押しのAT小役を押し順小役に置き換えることは容易。ゼロボもボーナス成立後の完全ハズレ確率を極端に低くすることで、プレイヤーが注意して揃えないようにさせるのではなく、そもそも揃いにくい設計とすることで、打ちやすさを実現しました。
翌2012年に早くも純増3.0枚AT機の基本形となる『ねえ〜ねえ〜島娘』と『パチスロ鉄拳デビルVer.』が登場。このように“AT機”と呼称されていますが、厳密にはART機だったりします。
内部的にボーナス(ゼロボ)が成立した時点で、ボーナス成立を契機にしたRTに突入。ボーナスを揃えることができないので、そのRT状態が延々と続くことになります。通常ゲームも押し順ナビが発生する区間も、常にこのRTが有効ということになります。通常ゲームもRT、押し順ナビが出たらART。それならばRTを省いて、押し順ナビが出る区間をATといったほうが分かりやすい。ということでしょう。
アクセルATの誕生
自主規制の限界、1Gあたりの純増3.0枚を実現したならば、それ以上はないのではないか。と、立ち止まらないのがパチスロ開発者の凄いところ。AT機はさらに“アクセルAT”へと発展します。
通常のAT機とアクセルATの違いは、通常ゲームのリプレイ確率です。通常のAT機では、リプレイ確率が1/4程度にする必要があったのに対し、アクセルATは遊技機規則の下限である1/7.3とすることができたのです。
基本的な作り方は同じですが、アクセルATは隠し持つことになるボーナスを純増0枚とするのではなく、むしろ減らす“減るボーナス=減るボ”としています。
出玉試験上では、許された出玉率の幅の中に落ち着ける目的で、現状維持の区間を増やすために使われたゼロボですが、これを減るボとすれば“より出玉に割ける余力”が生まれることになります。
パチスロの出玉設計は「初当たり確率・初当たりからの平均獲得枚数・通常ゲームの消費速度」のバランスで成り立っています。1Gあたりの純増速度が自主規制の上限でも、他に回したい部分は多くあります。そして、純増3.0枚の自主規制が撤廃された6号機にあって、主流となっているシステムです。
アクセルATの登場で“最終的な一つの答え”に到達することとなりましたが、他のメーカーも足を止めていたわけではありません。いろいろな模索を続けていました。
『やじきた道中記乙』は、まだボーナスが成立していない“工場出荷状態”は、2枚掛け専用。ボーナスを内部保有した段階から3枚掛け専用に。もちろん、ユーザーが普段ホールで遊技する状態は3枚掛けですが、出玉試験対策ということになります。
この対策が有効ということで、初の6号機となった『HEY!鏡』(大都技研)は「アクセルAT+やじきた方式」が採用されました。その当時に主流とならなくても、アイデアを出し続けることは大事と思わされます。
5号機、進化の終了
近年、検定・認定切れの撤去で話題になる5号機の大半が、上述したアクセルATを採用していました。
正解のシステムが見つかると右へ倣えと、演出やトリガーは違っても似た機種だらけになるパチスロ業界。急激に純増3.0枚のAT機ばかりが作られていくこととなります。スペックの余力的には5号機最強ですから、『バジリスク絆』(エレコ:2014年)、『沖ドキ!』(アクロス:2014年)などを筆頭に多くの人気機種も登場しました。
しかし2014年9月1日。警察庁より指摘事項をまとめた通達がなされました。いわゆる“ペナルティ規制”です。
そのメインとなったのは、パチスロ機が市場に出るための検査機関である保通協での出玉試験方法を変更するというものでした。それ以前の実射試験(プレイヤーと同様に遊技する試験)では、AT・ART状態となったら、押し順ナビに従ってくれましたが、あらかじめ決めた押し順を続け、ナビに従わないこととなりました。
この当時は、押し順ナビ非発生時は、順押し以外だとペナルティとなるAT機が主流。順押し検査では、AT中も通常状態を消化しているのと同じこととなってしまいます。AT機の順押しでは、出玉率の下限である55%以上をクリアできなくなりました。いわゆる“ペナルティ規制”です。純増速度を高めたら、その分は通常ゲームのコイン持ちを良くしなさい……ということです。
コイン持ちの良いAT機も登場しましたが、通常ゲームの消費速度を優遇しなければならない設計は、残りの出玉設計バランスである初当たり確率・初当たりからの平均獲得枚数に負担をかけることとなります。
しかし、その高ベースAT機の模索も2015年11月まで。12月以降は「ボーナス込みの1G純増が2.0枚以下」に制限された5.5号機しか販売できなくなります。純増2.0枚ならばATではなく、ARTでも十二分に実現可能。今までできていたことができなくなる。今でもできることを模索する。そのような形となり、5号機で主流となるシステムの進化は幕を閉じることになります。
そこからは、有利区間の概念を盛り込んだ5.9機を経て(期間が短かったために手探りのまま終わる)2018年2月に遊技機規則が改正され、6号機時代となったのは皆様もご存知の通りです。
規制が矢継ぎ早に来てから、間をおかずに遊技機規則が改正されるのも、問題視されたシステムは生き残り、ノーマルタイプが割りを食う構図は4号機から5号機と同じ。歴史は繰り返すものだなと感じました。そうしてできた6号機の遊技機規則ですが、出玉率やボーナス払い出し枚数といった数字以外がほぼ同じとなっています。既にアイデアのネタ切れなのか、まだまだ驚くような進化があるのか。これからも注目していきたいと思っております。
番外編・・・
主流となるシステムの進化は終わりましたが、5.5号機以降も驚くようなシステムを持った機種も登場してくれました。番外編として2機種だけ紹介させてください。
・リノ(山佐:2015年)
5.5号機のスタートとなる2015年12月に登場した『リノ』。隠し持たされたボーナスを放出できれば、その消化後は純粋な通常状態となり、メダルの増える普通のボーナスを高確率で抽選。メダルの増えない隠し持たされるボーナスが成立するまで“連チャンゾーン”が続くものでした。
この発想は、2009年に “ネオストック”としてネットから提案されていましたが、それを発展させた形ですね。このシステムは6号機でも(今のところ)禁止されていないので、これからも期待したいです。
・ルパン三世-世界解剖-(オリンピア:2018年)
通常ゲームに見えるところが実はボーナス中という逆転の発想を実現した唯一無二の機種。『ランブルローズXX』以来、10年ぶり2機種目という特殊な2種BBの使い方を採用していました。
登場したのは6号機の遊技機規則が施行された後に登場した5.9号機ですが、危険な匂いを感じたからでしょうか。「すべての消化ゲームのうち、ボーナス消化が半分以上になるのは認められない」と内規が加えられたため、6号機では作ることができなくなりました。半分以上ではなければ……という余地はありそうですが。
5号機末期のオリンピアは『不二子TYPE A+』のJAC INストックなど、未来に繋がりそうなアイデアを見せてくれましたね。
佐々木真(ささきまこと)
パチスロ歴30年の2号機世代のフリーライターで、2000年よりファン向け媒体を中心に活動。新システムを見ると、遊技機規則をどのように活用しているか考えたくなる性分。好きな5号機は『スカイラブ』。