
irodori Brandeng㈱の村本彩代表
遊技機スペックや出玉といった「機能的価値」の訴求が限界を迎える中、パチンコホールには顧客の情緒を動かす「人間味」のある発信が求められている。
かつての大手飲料メーカーでの経験を活かし、完璧さよりも「情緒的価値」に着目した『ナチュラルブランディング』を提唱するirodori Branding㈱の村本彩代表は、SNSを通じた店舗ブランディングでは、弱みや失敗さえも魅力に変わると説く。
業界が抱えるネガティブなイメージをどう逆手に取り、スタッフの個性を組織の力へと統合していくか。SNS時代における店舗ビジネスのヒントについて聞いた。
弱みや失敗談は「個性」に
──提唱されている『ナチュラルブランディング』では、完璧さよりも人間味が重視されると言われています。実店舗のSNS運用において、自分たちの弱みや失敗談はどのように扱うといいのでしょうか。
ブランディングやマーケティングを考える際、多くの場合は「強み」にばかりフォーカスし、弱みはなるべく隠そうとするものです。しかし、実は弱みだと思っている部分こそがその人や店舗の「個性」であり、見方を変えれば魅力的な要素になり得ます。注意しなければならないのは、単に弱音を垂れ流したり、同情を誘ったりすることではありません。大切なのは、逆境や困難に対して、どのような姿勢で立ち向かおうとしているのかというプロセスを発信することです。その姿勢にこそ、人は共感し、応援したくなるのです。
パチンコ業界が、社会的な逆風やネガティブなイメージを持たれやすいのであれば、それはある種の「逆境」なのではないでしょうか。
例えば、飲料業界のリーディングカンパニーであるアサヒビールでは、あえてCMなどで「お酒を飲まないシーン」や「適正飲酒」を推奨するような、一見すると自社の売り上げに相反するようなメッセージを打ち出しています。しかし、企業としての倫理観や誠実な姿勢を示すことで、結果として「この会社は信頼できる」というブランディングに繋がっています。
パチンコ店においても、業界特有の課題に真摯に向き合い、「ここにしかない楽しさ」を等身大の言葉で伝えていくことは、ファンとの強い絆を築く大きな武器になるはずです。
──店舗スタッフがSNSで個性を出して発信するケースが増えています。その中で、個人の発信と企業ブランドの整合性はどうつければいいのでしょうか。
そこはインナーブランディングが重要です。スタッフ一人ひとりがブランドの一員であるという自覚を持ち、組織のビジョンに共感しているかどうかが鍵となります。例えばラグジュアリーブランドのように、ブランドの価値が非常に大きい業界では、販売員の個人発信を制限するケースがあります。一方、アパレルのように販売員の個性が店舗の魅力になる業界では、スタッフ自身がSNSでコーディネートを発信し、ファンの来店につながるというケースもあります。
ただ共通して言えるのは、今の時代、ルールや規定で縛り付けることは難しいということですね。むしろ、「この場所だからこそ自分は活躍できている」というブランドロイヤリティを感じられる環境を作ることが大切です。
重要な発信の「業務化」
──SNS担当とそうでないスタッフの間で摩擦が起きるケースがあります。
よくある話ですね。その原因の一つは、SNSが業務として明確に定義されていないことです。中小企業の場合、SNS運用が手探りで「本業の合間にやるもの」になっているケースも多いのです。すると、発信している人は仕事のつもりでも、周囲からは「仕事をしていない」と見えてしまうことがあります。だからこそ、SNSを業務としてきちんと位置づけ、どのくらいの時間を使うのか、どんな成果を評価するのか、どういう役割なのかを明確にする。そうすることで、組織内の不満や誤解を減らすことができます。
成果に応じたインセンティブを設けるのも一つの方法です。SNS発信によって来店が増えるなどの成果が可視化されることで、周囲の理解も得やすくなります。
■SNSにおける「フロー型」「ストック型」の特性

実際には、運用に費やす時間的な問題を踏まえ、この「フロー型」「ストック型」の中から、一つずつ選択することが推奨されている。
──著書では、SNSを「フロー型」と「ストック型」に分類し、最適な活用手法について触れています。具体的な使い分けや、昨今のトレンドを教えてください。
X(旧ツイッター)のように情報が次々と流れていく「フロー型」は、新しい出会いを作ったり、広告のように知ってもらうきっかけを作ったりするのに適しています。ユーチューブショートやTikTokといった「動画」も非常に強力なツールになっています。
インスタグラムもリール動画が主流ですが、プロフィール画面で過去の投稿が並ぶ「ストック型」の機能も持ち合わせており、そのアカウントの世界観や価値を伝え、ファンを定着させる力があります。
■段階ごとに適したツール

それぞれのツールごとに異なるTPOを意識して運用することが重要となる。
──発信内容に気をつける点はありますか。
どのツールを使うにしても最も大切なのは「主語を変える」という意識です。多くの企業は、つい「自分たち(店側)」を主語にして、伝えたいことばかりを発信してしまいます。しかし、SNSの主役はあくまでも画面の向こう側にいる「お客さま」です。例えば「私たちの商品はすごい」ではなく、「この商品体験があなたの生活にこんな楽しさを生みます」という言い方です。その視点でパチンコという遊びがどのような楽しさや刺激、リフレッシュを提供できるのかを考えるべきです。
相手のことを徹底的に考え、相手の生活に寄り添った発信を続けることで、お客さまは「この店は自分のことを分かってくれている」という安心感や信頼を抱くようになります。仲間と一緒に楽しめる時間だったり、日常の中のちょっとした刺激だったり、そうした体験をイメージできる発信は共感を生みやすいと思います。それが結果として、他店との差別化、つまりブランディングへと繋がっていきます。
■「らしさ」を核とする同社のコンセプトマップ

──フォロワーの多寡を実店舗ビジネスではどう捉えるべきでしょうか。
フォロワー数は分かりやすい指標ですが、来店や売上につながらなければビジネスとしての成果にはなりません。重要なのは、SNSとリアル店舗をどう結びつけるかです。例えばLINE登録などのクローズドなコミュニケーションを作ることで、SNSから来店につながる導線を作ることができます。来店時のアンケートなどで、「SNSを見て来た」という声がどれだけ増えたかで貢献度を測ることも可能です。

──SNSでは批判的な声も届きます。特にパチンコ業界ではその傾向が顕著です。そうした反応にはどう向き合うべきでしょうか。
対立構造を作らないことが大切だと思います。否定するのではなく、「そういう見方もありますよね」と受け止める姿勢です。哲学では、ある主張(テーゼ)と反対意見(アンチテーゼ)の対立だけでなく、双方の意見を統合して新しい定説を導く「ジンテーゼ」という考え方があります。SNSでも同じで、どちらかを否定するのではなく、両方を含めた視点を持つことで対立を避けることができます。例えば「確かにネガティブな側面もあります。でも、こういう価値もあります」という伝え方です。そうすることで、議論ではなく対話が生まれます。
「あなたがいるから行く」
──今後SNSによって、店舗と顧客の関係はどのように変わると考えていますか。
機能や価格での差別化が難しい時代だからこそ「誰が提供するのか」という価値が重要になります。SNSでスタッフの想いや日常が見えると、お客様は「このお店だから行きたい」「この人がいるから行きたい」と感じやすくなります。
SNSは単なる宣伝ツールではなく、人と人の関係をつくるツールです。お客様が感じている「パチンコの面白さ」と、自分たちが提供したい価値の共通点を見つけ出し、それを自分たちらしい言葉で紡いでいくこと。その積み重ねこそが、これからの時代に選ばれ続ける店舗を作る唯一の道なのではないでしょうか。
──ありがとうございました。
■プロフィール
irodori Branding株式会社代表。
1982年福岡県生まれ。九州大学経済学部卒業後、サントリー(現サントリーホールディングス)に入社し、営業・マーケティング部門で酒類の新商品開発やブランド戦略に携わる。2018年に独立し、2019年に同社を設立。自分らしさを軸に価値を磨く『ナチュラルブランディング』を提唱し、ブランディングを通じて企業や個人の事業支援に取り組んでいる。
【URL】https://irodori-branding.com/

『価値づくりの教科書』
irodori Branding 村本彩(著)
発行元:総合法令出版
商品やサービスの価値は「自分らしさ」から生まれるという考え方を軸に、長く愛されるブランドの育て方を解説した一冊。価値観と得意なことを掛け合わせてビジネスを軌道に乗せる方法や、軸のブレないブランドづくりの実践ノウハウを紹介する。さらに最新のWEBマーケティングについても体系的に学べる内容となっている。



