【特別インタビュー】「新規獲得」での健闘と「顧客定着」での惨敗が示す、業界の構造的課題/国際カジノ研究所・木曽崇所長

投稿日:2026年4月2日 更新日:

木曽崇氏

パチンコ業界が長年掲げてきた「新規ファン獲得」という課題。しかし、国際カジノ研究所の木曽崇所長が2025年11月に行った最新調査から見えてきたのは、入り口(新規獲得)は成功しているものの、出口(離脱)で惨敗しているという意外な実態だ。独自の分析から見えてきた業界の生存戦略について、木曽所長に話を聞いた。

半分は誤解?「若者のパチンコ離れ」

──まず、今回の調査では、かなり意外な数字が出たと伺いました。
そうですね。業界内では常に「若者のパチンコ離れ」が嘆かれ、「若年層の新規獲得」が叫ばれていますが、データを見る限り、その認識は半分間違っています。まず、業界の悲願である「新規ファンの獲得(入り口)」に関しては、パチンコは競馬とほぼ互角に戦えているという事実があります。

──新規獲得で健闘しているというのは、意外な印象を受けます。
「直近1年での開始率」という指標を20代男性に限って見ると、競馬の開始率が9.3%であるのに対し、パチンコは8.9%です。その差はわずか0.4%しかありません。
世の中でギャンブル要素のある遊びに興味を持つ層のパイは限られています。その中でパチンコは、これだけの数字を取れているわけです。よく「競馬はネット投票があって若者へのリーチが広いから有利だ」と言われますが、入り口の時点では、パチンコは依然として若者にとって「大人への階段」としての地位を保っており、有力な選択肢として機能しています。

「ザルで水をすくう」パチンコ参加実態

──新規が入ってきているのに、なぜファン人口の回復に結びついていないのでしょうか。
ここからが、パチンコ業界にとって「不都合な真実」になります。入り口(獲得)は競馬と同じでも、出口(離脱)で完敗しているのです。先ほどと同じ20代男性のデータですが、「参加者離脱率」を見ると、競馬の59.2%に対し、パチンコは67.4%と、約8ポイントも高い数値となっています。

──若年層の時点で、既に定着率に大きな差がついているということですね。
非常にもったいない状況です。若年層の時点で「入ってくる数は同じでも、定着せずに辞めていく割合はパチンコの方が圧倒的に多い」という構造ができあがってしまっています。まさに「ザルで水をすくっている」状態と言えるでしょう。せっかく一度は試しで遊技してくれた若者が、「面白くない」「続けられない」と判断して、すぐに去ってしまっているのが現状です。

──なぜ、これほど離脱してしまうのでしょうか。
実は若年層に限らず、男性層全体で見てもパチンコの離脱率は競馬より高い傾向にあります。データを詳細に分析すると、男性がパチンコを辞めるタイミングには明確な「2つの山」があることが分かります。

──「2つの山」とは何でしょうか。
「30歳前後」と「60歳前後」です。1つ目の山である「30歳前後(20代後半~30代)」の離脱要因は、ズバリ「結婚」です。配偶者が「あり」になると、離脱率が跳ね上がります。私はこれを「嫁ブロック」と呼んでいるのですが、パチンコは遊ぶのに「時間」と「お金」がかかりすぎます。結婚して家庭を持った時、「週末の朝から出て行って夜まで帰ってこない夫」とは結婚したくないから、「やめてよ」となるわけです。

一方で競馬は、ネット投票なら自宅にいながら、しかも100円から遊べます。お小遣いの範囲で、家族サービスをしながらこっそり続けることもできる。このシステムの違いによる「結婚適齢期のハードル」が、最初の離脱の山を作っています。

──では、2つ目の山である「60歳前後」の要因は?
こちらは「定年退職」です。今回の調査で特に深刻なのが、このタイミングでの他競技との差です。60代男性の離脱率を見ると、競馬は微減(2.8%)で済んでいるのに、パチンコは3倍以上の速度(9.1%)で客が減っています。

そして、その減少傾向は70代以上になるとさらに加速し、最も深刻な状況となります。競馬の減少率が9.1%であるのに対し、パチンコは15.6%の減少を記録しており、他の公営競技(ボートレース1.7%、競輪1.4%)と比較しても、パチンコだけが「一人負け」の状態です。

チャート1:開始率・離脱率比較

チャート1詳細(1)

チャート1詳細(2)

女性層がパチンコ店に求める意外な価値

──男性層が「離脱構造」にある一方、女性層には全く違う「希望」があるそうですね。
ええ。ここが今回の調査で非常に興味深かった点です。男性市場のような悲観的な状況とは異なり、20代女性に限って見ると、パチンコは競馬よりも「客が増えていて、定着している」という逆転現象が起きているのです。

──実際のデータには、どのような違いが出ているのでしょうか。
まず「参加者増減率(勢い)」ですが、20代女性市場において競馬はプラス1.0%の微増ですが、パチンコはプラス2.5%と、競馬を上回る成長率を見せています。さらに驚くべきは「離脱率」です。競馬の離脱率が64.6%であるのに対し、パチンコは50.6%と、14ポイントも低く抑えられています。

──なぜ、スマホで投票できる便利な競馬ではなく、わざわざ店に行くパチンコが選ばれるのでしょうか。
そこが重要なポイントです。もし「スマホで買える利便性」だけで勝負が決まるなら、デジタルネイティブである20代女性こそ競馬に流れるはずです。しかし結果は逆でした。

これは数字からは出ない私の仮説ですが、男性と女性で求めているニーズが根本的に違うのではないかと見ています。男性は「射幸性」や「勝ち負け」を求めていますが、女性はパチンコに「自分の居場所」を求めている可能性があります。

──「居場所」ですか。
この「居場所」へのニーズは、20代だけでなく、その上の30代女性の動向を見るとより理解しやすくなります。30代の子持ち女性などは、子供が小学校に入学するなどして手離れしたタイミングで、平日の昼間に自分の時間ができます。その隙間時間を埋めるための「物理的な居場所」としてパチンコが選ばれている側面があるのではないでしょうか。

競馬のネット投票だと「家にいる」ことになりますが、パチンコは物理的に「家から外に出る」ことができます。こうした「居場所」が、20代を含めた若い女性層のニーズと合致しているのかもしれません。

彼女たちに必要なのは射幸性の高い遊技機ではなく、「快適に時間を潰せる環境」です。ここを履き違えて高射幸機ばかりをアピールすると、せっかくの「希望」も失ってしまうでしょう。

チャート2:男女別参加データ比較

チャート2詳細(1)

チャート2詳細(2)

「新規獲得」同等の「リテンション」対策を

──具体的にどのようなリテンション(既存客維持)対策を、業界は行うべきでしょうか。
業界全体と、ホール個々での対策が必要ではないでしょうか。まず業界全体としては、遊技機のスペックを極端なカテゴリへ誘導しすぎるのをやめることです。ある時は「遊パチ(低射幸)」だと言ってそちらに全振りし、規制が変われば今度は「ラッキートリガー(高射幸)」だと大騒ぎする。その度に、トレンドとは対照的なスペックを好む層などがついていけなくなり、結果としてユーザーを自ら振り落としてしまっています。

ここで強調したいのは、一度離脱したユーザーを呼び戻すのは、新規顧客を獲得するよりも遥かに困難であるという事実です。一度「つまらない」「ついていけない」と見限った客は、二度と戻ってきません。

だからこそ、どんな規制環境下でも提供し続けられる「中間的に位置する遊び」を軸に据える必要があります。射幸性が極端に高くも低くもない、いつ来ても変わらない「程よい遊び心地」の台を常に営業の中心に据える。そうやって遊びの基準を安定させることで、規制の波に左右されずにファンを定着させる土壌を作ることが、極めて重要です。

──ホール個々ではいかがでしょうか。
お客様のライフサイクルに合わせた遊技環境を提供できているか、という点を見直してみてはと思います。先ほど触れたように、男性客は「結婚」や「定年退職」というライフステージの変化で離脱します。

例えば、結婚して時間がなくなった30代のお客様に、短時間で楽しめる遊び方を提案できているか。定年を迎え予算が減った60代のお客様を、無理のない金額で遊べる遊技環境を用意できているか。

ただし、単に「1パチもあります」と置いておくだけでは、4円パチンコで遊んでいた人にとっては「都落ち」感が強く、面白くありません。急激に刺激を落とした遊びを提供するのではなく、その中間となる遊びや、段階的に移行できるようなソフトランディング(軟着陸)の遊技環境を用意する必要があります。

5年、10年とお付き合いしているお客様のライフステージの変化に気づき、離脱のタイミングを先回りしてその要因を解消していく。これこそが「ご近所様ビジネス」の原点です。

パチンコ業界は、派手な「新規獲得」キャンペーンと同じくらいの熱量とリソースを、「リテンション(既存客の維持)」にも注ぐべきではないでしょうか。

──ありがとうございました。

■プロフィール
木曽 崇●きそ・たかし
株式会社国際カジノ研究所・所長。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)、日本で数少ないカジノの専門研究者。米国大手カジノ企業、エンタテインメントビジネス総合研究所を経て、国際カジノ研究所を設立。

関連記事

-企画
-