【新春特別インタビュー】
「 黒の誘惑 」
大木啓幹 オオキ建築事務所代表

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オオキ建築事務所が業界で初めて本格的・大規模な「バイオフィリックデザイン」を取り入れた《スーパーハリウッド岡山本店》(2023年12月オープン)。以降、大手を含むホールでも採用する動きが広がりつつある。

パチスロコーナーを中心に採用されるモノトーン調の黒い空間づくり。それは、短期的な効果の一方、娯楽としての大衆性を狭めることになっていないだろうか。遊技人口の拡大という最重要課題に向き合う今こそ、誰もが入りやすい開放的で明るい空間へと舵を切り、新たなファン層を開拓する視点が不可欠だ。未来に資するホールの在り方を考えたい。

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「黒」が増殖するホール空間

モノトーン調の黒い空間づくりが定着して久しい。照度を落とし、壁や床、什器等をダークトーンで統一することで、遊技機や演出機器等を極端に際立たせる──。しかし、そうした「黒い空間」がもたらすのは、遊技機の映像を際立たせるプラスの効果だけなのだろうか。実はその一方で、未経験者やライトユーザーを遠ざけ、大衆娯楽としての広がりを自ら狭めてはいないだろうか。オオキ建築事務所の大木啓幹代表は次のように話す。

「パチスロコーナー=モノトーン調にするという発想が本当に正しいのでしょうか。海外のカジノに行けば分かりますが、スロットコーナーに暗い雰囲気は一切ありません。むしろ明るく、誰でも抵抗感なく入れるような開放感に満ちあふれています。それに比べると、ホールのパチスロコーナーはどんどん暗くなり、マニアックな限られた人だけの世界へ入り込んでいるように見えます。これでは大衆娯楽としての入口を、自ら狭くしているようなものだと感じてしまいます」

モノトーン調の黒い空間には、確かにある種の「即効性」がある。視界を遮ることで遊技に集中させ、短期的には稼働や売上に寄与するかもしれない。しかし、そこに注力するほど一種独特なムードを醸し出し、女性客やシニア層など幅広い層が入りにくい空間となる。街中にも、中で何が行われているのか分からないような薄暗い雰囲気の施設や店舗を見かけることがあるだろう。そうした場所は多くの人から敬遠されているはずだ。

「かつてラスベガスのカジノは暗く閉ざされた場所でしたが、統合型リゾート(IR)のコンセプトを確立した画期的な施設として有名な『ミラージュ』(1989年開業)や『ベラージオ』(1998年開業)等によって様変わりしました。街全体が明るく家族連れでも楽しめる空間になったことで、今の賑わいにつながっています。もし、転換できていなければ、暗くさびれた街のままだったと思います。

つまり、暗くすれば幅広い客層から支持されるというのは幻想にすぎません。業界では一部のホールが暗い空間や演出を取り入れ、集客できたことで、それが流行りのように見えてしまったのでしょう。暗さが人を呼び込む仕掛けになっているわけではありません。そうした“黒の誘惑”に流されない選択も大切です」

Ooki Hiromoto
オオキ建築事務所代表。一級建築士。大型複合施設・商業施設・ホテル施設・温浴施設・住宅等の建築デザインを手掛ける。海外での建築賞を多数受賞。コロナ禍ではパチンコ店の換気性能の高さを内外に向けて提言した。

人が本能的に安心する空間とは

黒い空間の対極にある概念が「バイオフィリックデザイン」だ。人間の本能的な欲求を基に、建物やデザインに植物や自然光、水などの要素を反映させたデザイン手法である。世界的研究機関において、自然の要素が増えることで心理的な安心感が高まる結果、滞在時間が伸びることが立証されている。自然を感じる空間は、人の気持ちを高める、ワクワクさせるだけでなく、“とどまらせる”力を持っている。

大木代表は業界で初めてこの考え方を採用し、森林を思わせる緑や花びらを大胆に配したホール空間づくりを行っている。その結果、客数が増えるだけでなく、企業イメージが向上し、周辺住民にとっても店舗との心理的な距離が縮まり、地域と共生する拠点としての機能も高まる。黒い空間が“短期的な集客”を狙うものであるのなら、緑のある明るい空間は“長期にわたって支持され続ける店舗”をつくるアプローチと言える。

「私たちの業界には諸問題が山積しているとはいえ、すべての業界人が共通認識として持つ最も大きな課題が遊技人口の回復・拡大です。その観点に立てば、バイオフィリックデザインに代表される、自然の要素を取り入れた明るい店づくりにこそ、未来があると考えます」

大木代表はこう続ける。

「形ある物の評価には百万の言葉がありますが、敢えて二つにわけるとしたら品が有るか、無いかの言葉しかありません。永遠に変わらない真理です」

“黒の誘惑”に流されるのか、それとも明るく開放された“品のある空間”を選び、未来につながる道を選ぶのか。その選択が、これからの遊技空間の価値と、業界の明日を決めていく。

月刊GREENBELT2026年1月号にも掲載中。

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