【特別インタビュー】三洋物産・盧昇代表取締役社長 
「目指すはフルラインナップメーカー」

投稿日:2024年9月6日 更新日:

今年6月、株式会社三洋物産の代表取締役社長に就任した盧昇氏。同社の展望に加え、不振が続くパチンコ市場の打開策や遊技機の将来像などを聞いた。

金沢前社長から学んだ
危機下でのリーダー像

──今年6月、役員の大幅な人事異動がありました。

これまで社長を務めた金沢(現会長)が今年12月で70歳を迎えます。引き続き、金沢が先頭に立つことも可能ですが、「若返りを促進したい」という考えもあり、今年6月というタイミングで社長交代となりました。私を含め新役員は、これまでも業務執行上の主力ではありましたが、対外的にもこのメンバーでやっていくという覚悟を、明確に見せた形になります。

──簡単な略歴を教えてください。

入社は2002年8月で、年齢で言うと30歳ぐらいの時です。当時の経営陣が「会社の近代化を図りたい」という方針を掲げており、入社後はまず、受発注や製造に関する基幹システムの整備や新卒採用、販促や広告宣伝、社会貢献活動の実施、CI(コーポレートアイデンティティー)の確立などを担当しました。そして、2004年以降は開発の責任者も務めました。

──当時は多くのホールが『海物語』シリーズ機を主力機種として、大量設置していた時代と記憶しています。

お蔭様で業績は良かったのですが、パチンコ市場は一部のメーカーが先導する形で版権モノが増え、筐体もギミックが付くなど、新しい時代を迎えていました。一方、社内では「海物語のこれ以上の進化は望めない」といった声が挙がるなど、閉塞感が漂う時期にありました。

私は「海物語にはまだ可能性が無限にある」と考え、開発メンバーにそれを伝えるとともに、開発業務全般の改革を続けました。結果、『海物語』シリーズは確率帯(ミドル、ライトミドル、甘など)やシリーズ(沖海、大海など)の多彩化を実現し、パチンコ機を代表するコンテンツとして現在に至っています。

──この間、特に思い入れの深い機種は何でしょう?

敢えて1機種挙げるとすれば初代のアグネス(CRA大海物語スペシャルWithアグネス・ラム)ですね。「海物語×何か」というアイデアが漠然とあった中で、初めて具現化したのが同機となります。

当時の開発メンバーからすればアグネス・ラムさんは何世代か上のコンテンツで、当初は戸惑いもあったと思いますが、最終的には良い機械に仕上げ、大ヒット機種となりました。

盧社長が特に思い入れの深い機種に挙げた『CRA大海物語スペシャルWithアグネス・ラム』(2008年リリース)。海物語コラボシリーズ第1弾で、永遠のアイドル「アグネス・ラム」さんの起用もあり、幅広い層から支持を集めた。

──金沢前社長から学んだことや思い出深いエピソードを教えてください。

金沢は豪放磊落な性格の持ち主で、ユーモアがあり誰からも好かれます。それでいて繊細で気遣いもできる人柄で、その点は特に見習いたいと思います。

人柄を示すエピソードとして忘れられないのが、金沢が日工組の理事長を務めていた時に起きた「検定機と性能が異なる可能性のある遊技機」の回収問題が発生した時のことです。本当に四面楚歌という状態のなか、問題解決に向けて自主回収に取組む金沢の背中を見て、危機にあってのリーダー像を強く学びました。

短時間遊技に適した
開発環境の整備を

──今のパチンコ市場をどう分析していますか?

ゲーム性の拡大など、日工組でも施策を打っているものの、満足できる状況ではありません。パチンコが良かった時代は、多くのホール様の営業方法が12割や13.2割分岐に自然と行き着いていました。

ユーザー視点で言えば、当時は普通に打てば玉が増えていくゲームでした。それがあるタイミングから、10割分岐やそれに近い営業となり、期待値としては玉が増えないゲームとなりました。これがパチンコ低迷の大きな理由になったと思います。

今回、全日遊連と日工組が足並みを揃えて行政に相談し、「賞品の提供方法に関するガイドライン」を制定することができましたので、今後はこの可能性が拡がることに期待しています。

──パチンコ機の仕様やゲーム性についてはいかがでしょう?

もっと味の違うパチンコ機が必要だと考えます。金太郎飴状態(画一的)と言われやすいため、インターフェース(遊技機とユーザーの接点)や遊技感覚の違うものを作っていきたいです。

──規制の見直しが今後も必要ということでしょうか?

少し細かな話になりますが、業界が今、一番考えなければいけないことは、訪日外国人の取り込みではないでしょうか。ゲームセンターでは売上の1~2割が外国人客で成り立っていますが、パチンコはゼロに等しい状態です。

何が大きく違うかと言うと、短時間で楽しめるかどうかという点になります。そのため、短時間遊技に適した遊技機の開発環境の整備が必要と考えています。

──訪日外国人も含めファン層の拡大は欠かせません。

そうですね、あとパチンコを盛り上げる施策として「KIBUN PACHI-PACHI委員会」による広報活動の展開も重要になります。今後もラッキートリガー機のような新しい味(ゲーム性)のパチンコ機が登場する際には、業界挙げてのプロモーションをWEB媒体やリアルイベントを中心に積極的に仕掛けていく方針です。

同委員会によるプロジェクトは、1年や2年で大きな効果が期待できるものではありませんが、与えられた予算を効果的に使い、実績を積み上げていくことを目指して活動しています。

業界挙げてのイメージアップ施策を行う「KIBUN PACHI-PACHI委員会」。有名人を起用した販促施策、実際にパチンコ・パチスロに触れることのできる各種イベント開催などを積極的に行っている(※画像は「お台場冒険王2024~人気者にアイ♡LAND」に協賛し、専用ブースを出展した時の様子)。

パチンコ業界のTOYOTAに

──三洋グループの今後の展望について、お聞かせください。

パチスロも含め、シンプルに遊技機のフルラインナップメーカーを目指します。色んな味の違う遊技機、パチンコだとミドル、ライトミドル、甘デジといった確率帯のみならず、最先端のデジタル機からオールド仕様のアナログ機までというようなイメージです。

遊技機の形が今後も変わり続けるなか、ホール様のその時々の「欲しい」というニーズにタイムラグなく応える、言うならば、パチンコ業界のTOYOTAになりたいと考えております。

──遊技機の形がどう変わると想定していますか?

実際にどう変わるのかというより、目指したいのは、インターネット空間ともリンクできる遊技機です。

テクノロジーが進化していく中で、遊技機だけ取り残された状態になるのは避けたいと思っており、ここはまた組合マターになりますが、例えばサブ基板側の映像や音声データがアップデートできるだけでも、ものすごい可能性を秘めているのではないでしょうか。

──遊技機開発の将来像は、いかがでしょう?

今、我々が最も苦しんでいるのは製造費や開発費の高騰です。その中で1年ほど前から、生成AI技術の活用について取組んでいます。映像やサウンドの生成など色々、活用の方法が見えてきており、研究のみならず、実際の遊技機開発に取り入れているのが現状です。

これは単にコスト削減のためだけにやっているわけではなく、例えば、1機種当たり3年ほどかかる開発期間を短縮することで、よりホール様やエンドユーザー様のニーズに合ったタイムリーな遊技機リリースを実現できます。開発期間の短縮は機械代の抑制にもつながるため、業界全体で見ても非常に大きな効果が期待できると思います。

──社長就任に当たり、改めてホール関係者にメッセージをお願いします。

正直、公営競技やネットゲームに比べて負けているのがパチンコ業界の現状です。ずっと右肩下がりの状況ですが、私自身、このままで終わりたくはありません。「絶対にパチンコの低迷に終止符を打つんだ」とメーカー、組合とも決意しています。

遊技機メーカーは、究極的には自社が生み出す商品(遊技機)でしか価値を表すことができません。必然的に、もっと面白い遊技機を作り続けることが使命となります。開発、営業、管理部署の全てが「もっと面白い遊技機が作れるかどうか」という1つの物差しに軸を置き、より良い会社運営をしていきたいと思います。

──本日は、ありがとうございました。

●プロフィール
盧昇(ろ・のぼる)
1972年2月生まれ。慶應義塾大学卒。2002年に三洋物産に入社。2024年6月、代表取締役社長に就任。趣味はゴルフ、座右の銘は「今日も生涯の一日なり」。

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