前回は導入後の機種判断で少しだけ数字のお話をさせて頂きました。今回はその数字の内容を少し掘り下げたいと思います(文=小島信之/トビラアケル代表取締役)。
この業界では客滞率という数字が一般的には「どれだけ粘ったか」を表しており、その数値が高いほどプレイヤーが粘った機種なので良いとされています。しかし、私はこの客滞率という数字で何かを判断することはありませんでした。それは客滞率が高い=粘っているということを確実に表している数字ではなかったからです。
説明するまでもありませんが、客滞率は「B差÷売上玉」で計算されています。計算式でもわかるようにB差が大きければ客滞率は上がりますし、売上玉が小さくても客滞率が上がります。
売上玉とB差は常に一定ではなく、そのバランス比で数値が計算されているのです。では、1人のプレイヤーが1つの機種で、1回も大当たりを引けずに10万円使ったとします。売上玉が多くなるので客滞率は下がります。しかし、実際はどうでしょう。そのプレイヤーは1回も大当たりせずにその機種で「粘っていた」のです。
客滞率という数字は、実際に起きている10万円使って「粘る」という事象を正確に表せていないのです。正確に表せていないのですから、判断材料にならないのは当然です。
膨大なデータ量がある全国データならそういったイレギュラーの可能性は薄まり、ある程度の精度でプレイヤーの粘り具合を表せると思います。しかし、1店舗の単日や1週間程度のデータ量の精度では、出玉などにも大きく左右される可能性が高いため、参考程度にしかならない数字だと考えます。
計数で表されている数字は機械的にできているのではなく、その全てが一人一人のプレイヤーの行動を集約したものや、その数字が表している結果でプレイヤーは何かを感じ取っているのです。
MYと単価は、あくまで平均値
10年ほど前にパチスロ機の性能を表す指標としてMY単価という指標が使われ始めました。MYを単価で割った数字がMY単価であり、それが900を超えると良い機種というような基準が一般的です。
玉単価は投資を表す数字ですので、投資に対してどれだけの見返り「MY」があるかを表しているのです。その当時、私はMY単価という数字が出る前から、MYと単価の関係性で機種を判断する指標を自分で持っていましたが、MYを単価で割っただけのMY単価では不十分であると考え、そこにMYとM♢の分布割合を判断に加えていました。それはMYと単価という数字は平均値であるからです。
例えば10台でMY3,000という数字になったとします。1台がMY30,000で残りの9台が0でもMYは3,000ですし、10台全てが3,000でもMYは3,000になります。
これは極端な例ですが、前者と後者ではリターンの内容が全く違うことはお分かり頂けるかと思います。平均値だけではその全体像を表せないのです。
投資とリターンのバランスを表すのが目的であれば、MYの中身と投資の中身、M♢の中身までしっかりと分析しなければなりません。MY単価が高い方が良いのは当然ですが、それに加え「MY○○枚以上の割合が●%以上、M♢▲▲枚以下が△%以下」というような感じです。全体を把握するなら平均値と分布割合が最低でも必要になります。投資とリターンの分析なので平均値であるMYと単価、それに加えMYとM♢の分布を表す数字が分析には必要なのです。
このように数字の意味をしっかりと理解して、プレイヤーがどのように感じるかを考えると、同じ数字を使っても分析の精度は格段に上がるのです。
◆プロフィール
小島信之(こじまのぶゆき)
トビラアケル代表取締役
2018年まで首都圏、静岡、大阪に展開するホール企業で機種選定を担当。2019年に独立し、その分析力を活かしエンタープライズの全国機種評価等を開発。現在はメーカーの遊技機開発、ホールコンピュータの機能開発など、幅広い分野に携わり、変態的なアイディアを提供している。馬と酒とスワローズをこよなく愛する。