あらゆる記録を更新し、華々しいスタートを切った「スマスロ」だが、勢いは徐々に失速している。1月は、『S パチスロ甲鉄城のカバネリZR』(以下、カバネリ)が『L HEY!エリートサラリーマン鏡PA4』(以下、サラリーマン鏡)の稼働を超え、「スマスロ」ではなく「メダルあり6.5号機」がパチスロ市場をけん引していた。
そんななか、1月末に『S MHWアイスボーンZF』(以下、モンハンアイスボーン)がリリースされ、さらに「メダルあり6.5号機」の市場が賑わいを見せている。プレイヤーの目には「スマスロだから」という文脈で物事は進行しておらず、「スマスロ」は“単なる新機種”のひとつとして映っているのかもしれない。
視点を変える
プレイヤーが「スマスロ」を「単なる新機種のひとつに過ぎない」と捉えているとしたら、我々(ホール業界側)はそれに応じて策を講じる必要があり、まずは市場の捉え方を整理しておく必要がある。以下にそれをまとめた。
×「スマスロ」or「メダルあり6.5号機」
〇「スマスロ」and「メダルあり6.5号機」
こう捉える前提には、「スマスロ」と「メダルあり6.5号機」のポテンシャルにはそこまで差がないことが関係している。そのため、“or”ではなく一括りの集団として“and”で捉えるべきだ。
例えばレイアウトを考える際、「スマスロ」だから「スマスロ」コーナーに配置するというような視点ではなく、Aという「スマスロ」と、Bという「メダルあり6.5号機」の間には、分析に裏付けされた親和性が存在するため、近くに配置する方が回遊性は高まりやすい。
このような“and”で捉える視点が併存時代では重要さを増している。あくまで一例だが、様々な局面でこうした視点が求められるだろう。
つまり、このような戦略構想を立案していく上では、遊技機の魅力や特徴を正しく把握しておかなければ、勝ち筋は見出しにくくなる。その意味では、過去に紹介した“偏差値分析”は、遊技機の魅力や特徴を把握する上では都合の良い指標だと考えている。
遊びやすく勝ちやすい!
『モンハンアイスボーン』の魅力
ここからは、新台『モンハンアイスボーン』を例に挙げ、遊技機としての魅力や特徴、および戦略構想について考えたい。
ほかの「スマスロ」や「メダルあり6.5号機」とは違う特徴的なデータが同機の偏差値から表れた。それは「勝ち率」というデータとなる。
同機の「勝ち率」は40%を超えており、「スマスロ」と「メダルあり6.5号機」の中では過去最大の値となった。一方「勝ち金額」は16,000円台となり、最近の「スマスロ」や「メダルあり6.5号機」に比べると見劣りするが、「勝ちの魅力」を総量的に捉える「Rv」は高い値を示した。
以上のことから『モンハンアイスボーン』の特徴的な要素とは、「勝ち率に起因し勝ちの魅力が形成されている」こととなる。こうした傾向を持つ「スマスロ」や「メダルあり6.5号機」はいくつか存在していたが、「Rv」がここまで高くなったのは同機が初めてだ。
つまり、同機のポテンシャルは「スマスロ」の『サラリーマン鏡』以上であることがわかる。これは上述した「スマスロ」と「メダルあり6.5号機」を枠組みとして捉えるべきではないことの裏付けとなるだろう。
参考までに遊技機のポテンシャルを測る偏差値分析の結果を図にまとめた。
【図1】レーダーチャート:遊技機の偏差値分析 ©SUNTAC「TRYSEM」よりデータ引用
※Rv(Reward value(リワードバリュー)の略称で、褒美の値・報酬値という意味。「勝ち率×勝ち金額」の算術を用いて、遊技機の魅力となる「勝ちの魅力」を総量値として表したデータ
唯一無二のポジションが作りやすい
前述したとおり『モンハンアイスボーン』の魅力や特徴は、「勝ち率」に起因し高い「勝ちの魅力」を有したところになる。
表面上のスペックやゲーム性だけを見れば、比較対象となる機種は多く存在するが、「プレイヤーの勝ち体験」という文脈に基づけば“唯一無二”の存在だ。したがって、戦略構想を走らせる上では“やりやすさ”がある。
我々の分析結果に基づけば、「勝ちの魅力」を軸にしたとき「プレイヤーのウォンツ(欲求)は大きく2つの属性に分かれる」という結果が得られている。わかりやすく表現すると、「勝ち率重視派層」と「勝ち金額重視派層」に分かれる。
同機は「勝ち率重視派層」に属するため、“ライトでマイルドな遊びを好む層”には魅力的に映る。最近リリースされる機種のほとんどが、ヘビーでストロングな遊びを好む「勝ち金額重視派層」に重きを置かれた機種ばかりだったので、横並びにカテゴライズされにくいことは、同機にとってプラスに働くだろう。
同機がパチスロ市場に再度、勢いを与えるきっかけとなることに期待している。
◆プロフィール
𠮷元 一夢(よしもと・ひとむ)
株式会社THINX 代表取締役。データアナリスト・統計士
1986年生まれ。文部科学省認定統計士課程修了。現在は、IT企業のシステム開発やソフトウェア開発にアドバイザリーとして従事しながら、パチンコホール・戦略系コンサルタントとして活動。そのかたわら、2021年、会員制情報配信サイト「THINX-LAB.」をリリースし、知見やノウハウの提供を開始。2022年、業界紙「TRYSEM CROSS」を出版し、現在も刊行中である。