大きな成功を収めたパチンコ機『P新世紀エヴァンゲリオン15未来への咆哮』(以下、エヴァ15)がリリースされて早1年、満を持して新台『Pゴジラ対エヴァンゲリオンG細胞覚醒L』(以下、ゴジエヴァ)が登場した。本稿では同機のポテンシャルや今後の動向について論じることとする(𠮷元一夢/THINX代表取締役)。
前稿に続き、アウトや売上などの「台データ」から個別機種の良否は問わず、プレイヤーの遊技文脈となる「顧客データ」に基づき読み解いてみたいと思う。
機種評価の偏差値分析からポテンシャルを測る
機種評価を行う上で、我々は「機種評価の偏差値分析」を活用している。これは、プレイヤーの嗜好や行動にマージ(合併・融合)させた分析のひとつで、市場にある限られた遊技機の中で相対的に判断し、どの程度のポテンシャルを有した遊技機なのかを測る狙いがある。
参考までに偏差値の基準を表にまとめた。
【表1】偏差値の参考
偏差値 | 最上位からの 割合(%) |
仮に1000機種あった 場合の順位 |
80 | 0.13 | 1.3位 |
75 | 0.62 | 6.2位 |
70 | 2.28 | 22.8位 |
65 | 6.68 | 66.8位 |
60 | 15.87 | 158.7位 |
55 | 30.85 | 308.5位 |
50 | 50.00 | 500.0位 |
45 | 69.15 | 691.5位 |
40 | 84.13 | 841.3位 |
35 | 93.32 | 933.2位 |
30 | 97.72 | 977.2位 |
偏差値を測る上での具体的な評価項目は6つ設けており、前稿で扱った「勝ちの魅力」という指標と、「遊びかたの質」と呼ぶ指標を使う。これは「勝ちの魅力」に引き寄せられた結果として、プレイヤーがどれだけ粘り込んで遊技していたのかを分析したものである。
具体的な項目は以下となる。
▌遊びかたの質
1.1人あたりアウト
2.遊技時間
3.60分以上遊技者割合(当該機を遊技した延べ遊技者の内、60分以上遊技するプレイヤーの割合を表したデータ)
▌勝ちの魅力
4.勝ち率
5.勝ち金額
6.Rv(Reward value(リワードバリュー)の略称で、褒美の値・報酬値という意味。「勝ち率×勝ち金額」の算術を用いて、遊技機の魅力となる「勝ちの魅力」を総量値として表したデータ)
では、個別具体的な評価を行いたい。先に調査対象機種の偏差値を表にまとめた。
【表2】導入7日間:機種評価の偏差値分析
©SUNTAC「TRYSEM」よりデータ引用 ©THINXによりデータ加工
現在まで市場をけん引してきたのは『エヴァ15』と『P Re:ゼロから始める異世界生活 鬼がかりver.M08』(以下、Reゼロとする)である。『ゴジエヴァ』がリリースされた2022年12月第4週時点においても、他の追随を許さない偏差値となった。
一方、『ゴジエヴァ』の偏差値は、「Rv」の偏差値こそ63となり、上位9.7%に位置づけられる「勝ちの魅力」を有した機種となったが、「遊びかたの質」を表す各項目の偏差値は51~53にとどまっている。
『ゴジエヴァ』総評
本稿で書き記した内容は、あくまで遊技機の相対評価から『ゴジエヴァ』をランク付けしたに過ぎない。結果に基づけば、2023年のパチンコ市場のスタートは『エヴァ15』と『Reゼロ鬼がかり』と共に。となるだろう。
ただし、何をもって「よし」とするのかは、導入に際して設定したであろう個別店舗の「目的」に応じた評価づけが正しい姿だと考えている。
仮に目的達成に近づけたのであれば、「手段」として「ゴジエヴァが有効に働いた」と判断してもなんら違和感はない。現に、年末直前の大切な時期に『ゴジエヴァ』は9.3%の「延べ遊技者」を創出している。
「延べ遊技者」とは、よく使われている「頭どり」データに基づいた数値ではない。実際に遊技したプレイヤーの「延べ数」を基に集計しているため、「頭どり」のような定点観測による「点」の評価ではなく、「線」と「面」の評価となり実態に近い数値だと考えている。
たとえば1,000人の「4円パチンコ」を遊技したプレイヤーがいた場合、おおよそ90人が「ゴジエヴァ」プレイヤーであることを意味している。販売台数や時期的なものとの兼ね合いもあるが、同機は2021年から起算してリリースされた機種の中で「延べ遊技者割合」が“過去最大”の数値を記録した。
それだけに期待も高く、同機の吸引力は極めて高かったと評価できるだろう。ともすれば、先述した偏差値分析の結果とは別に、マーケティング視点においては「導入しないという選択肢はなかった」と言えるのかもしれない。
参考までに延べ遊技者割合トップ10を表にまとめた。
【表3】導入7日間:延べ遊技者割合
項目機種名 | 導入日 | 延べ遊技者割合 |
Pゴジラ対エヴァンゲリオン G細胞覚醒 | 2022/12/19 | 9.3 |
Pスーパー海物語IN沖縄5 | 2021/7/5 | 8.1 |
P大工の源さん超韋駄天ブラック | 2022/4/4 | 6.0 |
P真・花の慶次3 | 2022/1/24 | 5.7 |
Pフィーバー戦姫絶唱シンフォギア 黄金絶唱 | 2022/9/5 | 5.0 |
P北斗の拳9闘神 | 2021/12/6 | 4.9 |
P新世紀エヴァンゲリオン15未来への咆哮 | 2021/12/20 | 4.9 |
P大工の源さん超韋駄天 | 2021/4/5 | 4.7 |
Pフィーバーからくりサーカス | 2022/8/8 | 4.5 |
Pワンパンマン | 2022/11/7 | 4.5 |
©SUNTAC「TRYSEM」よりデータ引用
つまり、遊技機とはどこまでいっても「長期に安定した利益の確保」という「目的」を達成させるための「手段」である。「当たった・外れた」「買えた・買えなかった」などの文脈は結果論に過ぎず、こうした議論を続けていると、いつの間にか「手段」が「目的」へとすり替わってしまう。
そうならないためにも、データで語り議論することが重要だと感じている。——自戒も込めて。
◆プロフィール
𠮷元 一夢(よしもと・ひとむ)
株式会社THINX 代表取締役。データアナリスト・統計士
1986年生まれ。文部科学省認定統計士課程修了。現在は、IT企業のシステム開発やソフトウェア開発にアドバイザリーとして従事しながら、パチンコホール・戦略系コンサルタントとして活動。そのかたわら、2021年、会員制情報配信サイト「THINX-LAB.」をリリースし、知見やノウハウの提供を開始。2022年、業界紙「TRYSEM CROSS」を出版し、現在も刊行中である。