来年創業70周年を迎える三恵観光。京都と滋賀におけるホール経営に加え、成長戦略として掲げるのは多角化の推進だ。コロナ禍収束の気配が見られないなか、どんな未来のビジョンを描くのか。グループを束ねる杉本潤明代表取締役兼CEOに聞いた。
──依然として、新型コロナウイルスは収束する気配を感じられない状況です。
新型コロナウイルスが感染拡大する前と比べ、企業経営という捉え方で大きく変化した点は、ディフェンスに対する意識の高まりです。コロナ前は、どちらかといえば、オフェンシブな経営スタイルで事業を展開してきました。しかし、今その考え方で様々なものごとを進めた場合は、跳ね返されるリスクが高まっていると感じています。
──今は、企業防衛に徹した方がいいという考え方でしょうか。
弊社は11月が決算期となっているのですが、ここまではコロナ禍の影響を受け、遊技機の調達をはじめ、様々な予算を縮小せざるをえませんでした。しかしそのなかでも、人材教育に費やす予算は、現状を維持することにしました。さらに、この4月には4人の新卒を採用しています。こういった時だからこそ、あらためて会社の財産は人であるということを実感していますからね。今は、将来的な飛躍のために、しゃがみこんで力を貯めておく時期だと思っていますが、来たるべき時に必要となる人材の育成に力を注いでおくことは重要な準備だと思います。
──反転攻勢に出る時期の目処は立っていますか。
誰でもそうだと思いますが、今は先行きをはっきりと見通すことは難しい状況です。そのため、あくまでも想定になってしまいますが、この後も3年ほど、2024年の春頃までは、ある程度制限された状態が続くと考えています。世の中から、新型コロナウイルスが完全に無くなることはないと思いますし、ワクチンだけでなく、やはり治療薬のようなものが開発されなければ、攻めの経営スタイルにもどすのは難しいのではないでしょうか。
──その攻めに出るまでの3年間は、どういった戦略を持って経営の舵取りを行っていく方針ですか。
3年といえば、比較的時間があると思いますので、今まで後回しにせざるをえなかった案件や、組織体制の整備などに、今のタイミングできっちりと向き合っていきたいと考えています。
パラダイムシフト進行で
感性を磨く重要性に着目
──コロナ禍で制限されがちな企業活動のベクトルを、会社としての総合力向上に充てていくということでしょうか。
今回のコロナ禍では、オンラインを用いた会合が普及するなど、自然発生的にパラダイムシフトが起きました。これは、長い目で見たら決して悪いことだけではないと思います。これまで直接行っていた会合などを一定程度オンラインで実施することで、相当業務の効率化が図れるようになったのは事実です。たとえ今のコロナ禍が収束したとしても、以前のような形態に戻ることはないのではないでしょうか。と同時に、新たなパラダイムに備えておく必要性も生じています。例えば産業革命以降、これまでの世界は様々なパラダイムシフトを経験してきました。 AIを用いた技術革新もその一つだと思いますが、我々としては、さらにその先にあるパラダイムシフトに向け、 AIでは補うことが難しい、想像力や感性といったものを磨いていきたいと考えています。これには、日々見聞きするもの全てにアンテナを張り、感覚を研ぎ澄ますという意識が大切になってきます。
──様々な業務でオンライン化が進むことで、考え方の変化はありましたか。
有り体にいえば、多くの方と同様、普通の生活を過ごせる大切さに気づいたということがあります。加えて、時間の使い方に対する考え方も変化しました。
──昨年、社長に就任なさってから10年が経過しました。
私が会社に戻ってきたのは28歳の時で、社長就任が35歳です。社長就任直後は、急いで自分のカラーに変えていかないほうがいい、3年ぐらいかけて少しずつ自分のやり方を浸透させていけばいいと思っていました。そのため当初、幹部へは「こうしたいけど、どう思う」といった問いかけを常としていました。しかしそれでは、今までとは何も変わらない。相手の意見にも耳を傾けつつ、「こうしたいから、こうして欲しい」と伝えるようにし、この10年をかけて徐々に変化させてきました。結果、組織として大きな変化を遂げたことは、私はもちろん、従業員も実感しているとの声を聞きます。現状維持は衰退していることと同義。今後も変化しつづけていきたいですね。
日本から世界市場へ
経営の多角化を推進
──会社として将来的に、まずは10人の経営者を誕生させるビジョンを掲げています。実現に向けて、どのような課題があると考えていますか。
根本にあるのは、日本市場だけでなく、海外で成立するビジネスを展開していきたいという考えです。今後日本市場だけでは、企業としての成長が頭打ちになりかねません。成長のためには、世界市場で、戦える武器が必要だということです。それが、多角化経営を推進している大きな理由です。長い目で世界市場をみれば、エネルギー、水、食料は重要なキーワードになってくると考えています。私のモットーは、「反省すれども後悔せず」です。今後もチャレンジする精神を忘れずにいきたいと思っています。
──業界の今後についてはどのような見通しを抱いていますか。
今のパチンコは、余暇時間の奪い合いで、年々その争いは激しさを増してきています。市場を見れば、店舗数は最盛期から半数ほどになり、参加人口は3分の1にまで激減しています。遊技機の総設置台数はそこまで変化はないですが、今後は減っていくことになると思います。市場全体が縮小しているということです。店舗数の減少で、大手チェーン企業は強みを今以上に発揮できるようになると思いますが、その一方で、今回のコロナ禍といったようなイレギュラーな事象に対するリスクは、かなり大きくなっているのではないでしょうか。
──リスクを抱えながらも大手優勢の構図は加速していくという見方でしょうか。
企業の大小に関わらず、上手く共存している業種を挙げれば、ハンバーガー業界が一つの参考になると思います。周知の通りハンバーガー市場では、少数の大手チェーンと、地場のチェーン、そして個性豊かな小規模店舗が共存しています。パチンコ業界は、どうしてもファンや売上の減少がフォーカスされがちですが、それでは気持ちが沈んでいくばかりです。新しい共存のあり方を、模索する展開があってもいいのかも知れません。
1975年1月4日、京都府福知山市生まれ。大学卒業後、不動産会社での勤務を経て、システムエンジニアに転職。28歳の時に、三恵観光株式会社に入社。35歳で代表取締役に就任。現在に至る。