実質的な遊技機調達におけるオンライン取引元年となった2020年。利用者側となるホール関係者や、オンライン取引を行っていない他メーカーはどのように捉えているのだろうか。
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メーカー間で温度差
部品交換ならの声も
レポート前編で紹介した2社だけでなく、遊技機売買のオンライン化を模索しているメーカーがある一方、慎重な姿勢を示しているところも存在する。
「機械は営業マンが売ってくるもの。全く考えていない」と言い切るパチンコメーカー関係者は、営業担当者が直接遊技機を販売することが重要と考えており、少なくとも現時点でオンラインを介す必要性を感じないという。
別のパチスロメーカー関係者も同様の考えだ。「しっかり実績を出す営業マンがいるので、中途半端にオンライン化を進めたら、優秀な人材を失うことにも繋がりかねない」と疑問を呈する。
一方、メーカーにとってのコスト削減効果は、販売チャネルの構成比率によると指摘するメーカー関係者は、「直販の比率がどれくらいあるかによって変わってくる。もとから直販の比率が高く、営業マンも必要最低限の数しか抱えていないメーカーにとっては、オンライン取引を導入したところで、コスト削減にはあまり繋がらないのではないだろうか」という。
その逆に、商社を介した販売比率が高い中小メーカーなどでは、「これまでに長年培ってきた販社との関係性を踏まえても、人を介さずオンラインで機械を売るという選択肢はとれないだろう」と見ている。
オンラインを用いた遊技機売買が、人の介在を完全に無くすことと、決してイコールではないことは、オンライン取引導入メーカーなども強調しており、この点については、少し誤解まじりに捉えられている向きは否めない。
とはいえ、基本的な遊技機性能の周知や、受注対応のオンライン化が省力化に繋がっていることは、当事者であるメーカー営業マンも体感している。とりわけ、時間が読みづらい受注対応が軽減される点は、乱れがちな労働形態を是正する効用が現れているようだ。
その一方、「今の段階では、遊技機購入に至る手続きが、対面販売よりも複雑になるなど、課題が多いと聞いている」というメーカー関係者も、将来的な普及には、是非なく首を縦に振る。
「どこのメーカーもオンライン化にアンテナは張っていると思うし、ある程度時間はかかると思うが、将来的にはいずれ普及していくだろう。ただ、とっかかりとしては、まずは部品交換のような取引きから、と考えているメーカーが大半だと思う」と見る。
と同時に、スタッフや拠点の省力化が進んでいく流れになることは否めないだろう、とも指摘している。
戸惑い見せるホールも
発注24時間化は歓迎
今後、人を介さない業務割合が増すことに、不安を抱くメーカーの営業スタッフも少なくないだろうが、オーダーを出すホールにとっては、オンライン取引特有の、時と場所を選ばないスタイルの利便性は高く評価されている。
メーカーによるサービスイン当初からオンライン取引を利用しているという都内のホール関係者は、「以前からあるオンラインを用いた部品発注時にも感じていたが、自分のタイミングで取引できる便利さはある。それまでは、担当者と連絡がつかないことがあるなどの不満もあった。
遊技機購入についても同じで、特に発注プロセスが夜中にできるのがいい。ただ、これまで口頭で伝えるだけだったことも、こちらでの入力が必要なので、まだ慣れていないということもあるが、ちょっとした作業的な面倒臭さはある。
それでも、仰々しく発注書に判子を押すことは、昔からの慣習以外のなにものでもないと思うし、今の時代を考えれば、発注や契約のプロセスに人を介さないと駄目ということはないだろう」と、この流れを前向きに捉えている。
別のホール関係者は、「コロナ禍を考えれば、こういった取り組みは必要だと思う。ただ現時点では、リアルな環境で機械がプレゼンされている状況もある。今後その辺りが変化し、オンライン取引が、多くのメーカーに拡がれば、店の効率化に繋がってくる可能性はあるだろう」と期待感を表している。
このほか、「需要が集中した際に、注文した台数が確保できるのか」と懸念を示すホールや、取引金額が大きくなりがちなことから、セキュリティー面でやや不安を抱いているという声もあった。黎明期ということもあり、利用者側であるホール関係者からはいくつかの要望が挙がっているが、オンラインを通じた遊技機の取引自体に対しては、比較的柔軟に対応している様子だ。
また、これらオンライン取引の導入による副産物も生じている。業界内における決済手段の電子化だ。
図らずも、2月19日に中小企業庁がオンラインで開催した「約束手形をはじめとする支払い条件の改善に向けた検討会」では、2026年を目処に、約束手形の利用廃止に向けた行動計画を策定する方針を示している。
この検討会では、業界のサプライチェーン全体で、支払い状況の改善を目指す方向性が示されるとともに、決済手段の電子化についても議論。フレキシブルで素早い決済手段の早期導入に、様々な業界で協力して取り組むことの必要性が求められ、3年後には、進捗状況を含めた中間評価が行われる見通しとなっている。
もっとも、約束手形を用いた決済は、年々減少傾向にあり、業界内でも同じ推移をたどっている。今では全く手形を用いないというホールがある一方、「億単位で大規模な設備投資を行う際は、まだまだ手形は使い勝手がいい。手形は、手持ちのキャッシュを確保し、キャッシュアウトを防ぐことに使える」とメリットを挙げるホールもあり、対応状況は様々だ。
今回の特集で紹介したサミーネットワークスと豊丸産業の取引サイトではともに、クレジットカードを決済手段の一つに採用。結果的にこれまでの口座引落しや銀行振込に加え、業界での電子決済の拡がりに一役買った格好だ。
いずれにせよ、遊技機取引のオンライン化は、各メーカーが今後、導入の是非を含めてどう考えていくかという問題で、ホール関係者が、「オンラインだろうが、リアルだろうが、重要なのは、遊技機の選択を間違わないことに尽きる」という本質に、変わりはないということなのかも知れない。