【レポート】どうなる?遊技機のオンライン購入(前編)~コロナ禍で日常化するウェブツールの普及も追い風に~

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ネット上で決済までも可能とする遊技機の調達スタイルが浸透しはじめている。サミーネットワークスが昨夏にサービスインしたウェブ上での遊技機購入サイト「777EC」の利用ホールは、年末までにおよそ約8,000店舗に達した。このことは、新台調達を定期的に行う全国ほとんどのホールが、オンライン上での取引を行ったことを表している。コロナ禍を受けた供給サイドによる効率化への模索が、今後の業界にどのようなインパクトを与えていくのだろうか。今後の可能性と課題に迫った。

新たな生活様式浸透で
サービス構築

新たな生活様式のなかで、幅広い層で、より身近になったのがオンラインを活用したやり取りだ。その範疇は公私に留まらないが、とりわけオンライン会議システムなどは、一つのビジネスツールとして、いまや当たり前に用いられている。他業種などでは、デジタルツールを用いて業務変革を行うDX(デジタルトランスフォーメーション)が、企業の生き残りに必須と謳われ、それぞれの業態に応じたデジタル化が浸透してきているのが実情だ。

もっとも、ネットを通じた遊技機販売についての構想自体は、これまでも業界には存在していた。しかし、従前からの商慣習や、1台数十万円する大規模な設備投資を、クリック一つで行う心理的な障壁もあり、販売ツールとしての導入は具現化していなかった。

その心理的な障壁を変化させたのが、コロナ禍に伴う、様々なオンラインツールの浸透だ。サミーネットワークスの「777EC」も、当初計画では、2022年頃のスタートを目指していたが、コロナ禍でオンラインを用いたやり取りが日常化する趨勢に乗って開発を前倒し。オンライン上での遊技機販売スタイルの確立に向け、一気にペダルを漕ぎ出した。

サミーネットワークスの「777EC」。

「前身となったのは、2014年にはじめたサミープラス。そこでは、部品の注文を24時間ワンストップで行うことができるサービスとして運用してきた。24時間受付ができるという点が好評で、営業マンの負担も軽減した。その流れのなか、2017年頃に、本格的に遊技機の販売窓口となるECサイトを構築しようというプロジェクトがスタートした。当初2022年頃の完成を計画していたが、コロナ禍に伴い開発を急いだ結果、昨年夏にはサービス開始にこぎつけることができた」と、サイト開設に至った流れを説明するのは、サミーネットワークス関係者。

同社が取引サイトを開設したのが昨年8月3日。同時に銀座製の『パチスロカイジ〜沼〜』が、EC販売の対象機種第一弾として市場投入されている。

その後、リリースされるパチスロ機の新台はもれなくECサイトに販売窓口を設定。パチンコ機も『Pビッグドリーム2激神 199Ver.』『デジハネPA交響詩篇エウレカセブンHIーEVOLUTION ZERO』などをサイトの販売ラインナップに乗せてきた。昨年末には、サミーの看板シリーズ最新作となるパチスロ機の新機種『パチスロ北斗の拳宿命』をリリース。「777EC」の普及に拍車をかけた。

「すでにパチスロ販売は、100%777ECを通じた取引になっている。全国9割の法人が登録し、そのほとんどが利用した。とりわけ、今回パチスロ北斗の最新作がサイトを通じた販売になったことで利用が促進された格好だ。パチンコ機のEC活用については、まだいくつかの課題があるが、まずはメイン機種の甘デジバージョンなど、スペック変更機などで利用促進を図っていければ」(同)という。

決済は、クレジットカードと口座引き落しが推奨され、オンライン取引と相性がいいポイント制度がある。また振り込みなどにも対応している。このうち、クレジットカード決済については、機械代回収作業が基本不要となるため、営業担当者の負担軽減にも寄与している。

さらに同関係者は、近年の遊技機販売傾向の変化も、オンライン販売との親和性を高めてきていると指摘する。

「コロナ禍云々とは関係なく、やはり、新台の多品種少ロット化が加速していることが大きいと思う。店舗の購入担当者が、出る機種すべてを試打することは大変だし、新機種内覧会などに足を運ぶ機会も減ってきていると聞いている。もちろん、実機を試打したいという要望はある。

例えば、パチスロ機なら、リール制御などを体感するにはリアルでないと難しいだろう。我々としては、サイト内の試打アプリを改善していくのと同時に、実際に担当者が遊技機を営業するスタイルも併用していく。すべてをオンライン化するわけではなく、営業は今後もリアルとオンラインの両軸で行っていく方針だ。それに、試打アプリの今後については、次世代通信規格である5Gが普及することで、よりリアルに近い環境を整えるだけでなく、VR空間を用いたアプローチ方法もあるだろう」と考えている。

また同社では、「777EC」をサミーグループだけでなく、他メーカー機種の販売窓口とする構想も存在する。さらに将来的な着地点の一つとして、同社が見据えているのが、「777EC」を、ホールとユーザー、メーカーを結ぶ、オンライン上のトータルプラットフォームに育成する構想だ。

「店舗の販促ツールなどの提案やオンライン会議の窓口になる発想もある。我々が、ファン向けに展開している情報サイト『777パチガブ』や、入場抽選システム『スリーセブンコンパス』などのコンテンツと連携し、多くのホール関係者が活用できるようにしていく」(同)ことを視野に入れている。

遠方ホールとの
関係強化にも寄与

豊丸産業も、他社に先駆け、遊技機を始めとしたオンライン販売の確立を模索する一社だ。同社は昨年11月、自社オリジナルECサイト『とよマーケット』を開設。開設当初から、遊技機にとどまらない製品ラインナップが特徴で、実際、取り扱い製品第1弾は、遊技コーナー内でソーシャルディスタンスを保つ感染防止対策製品「スペースボックス」となっている。その後、パチンコの追加スペック機の販売を始めたほか、現在では検温器も取り扱うなど、日々、製品ラインナップの充実化が図られている。

豊丸産業が運営する「とよマーケット」。

同社の遊技機販売戦略における「とよマーケット」の位置づけだが、現状は従来の対面販売を補完する存在と言って良いだろう。

同社社長室の佐藤健氏は「会員登録の分布を見た場合、特に地方のホール企業様の多さが特徴的だ。弊社の営業拠点から離れ、営業マンが直接、お伺いしにくいホール企業様に『とよマーケット』をご利用頂くことは、弊社にとっても大変ありがたいこと」と話す。

もちろんオンライン経由での販売に課題がないわけではない。例えば、遊技機の細かな仕様や特徴は、オンライン経由のみで伝え切る術は現状、同社においても確立されていない。

同社営業本部の大野憲本部長は「純粋な新規タイトルを『とよマーケット』で販売するには、まだ時間が掛かるだろう。当面は追加スペック機の販売にとどめる予定」と話す。

しかし同社では、この課題の改善に向け、新たなアプローチを試みている。その1つがVR技術の活用だ。よりリアル(現実)に近い動画で、製品の良さや特徴など、詳細な情報を伝えることが狙いとなる。

既に今年1月に納品を開始した『Pワイルドロデオ6750だぜぇ』販売時の営業ツールのひとつとして、主にコンテンツ内容を紹介するVR動画を作成。ホール関係者へ営業する際に活用した。

「斬新な動画技術ということもあり、ホール関係者様の反応も上々だった。VR機器の更なる普及が前提となるが、将来的には、『とよマーケット』で販売する各新台のページ内にVR動画を用意し、オンライン販売のみでもより詳細な情報を伝えられる環境を整えていきたい。そうなれば、オンライン販売で取り扱える遊技機の幅も広がる」(大野営業本部長)。

『とよマーケット』の今後の展開だが、利用ユーザーの対象をホール関係者のみに想定していない点がポイントだ。

佐藤氏は「遊技機の購入はホール関係者様に限定しているが原則、『とよマーケット』はオープンサイトとしての運用も想定している」と語る。

同サイトで販売している遊技機以外の製品、例えば検温器などは、ホール関係者以外でも購入が可能だ。現在、医療関係者やスポーツジム関係者から問い合わせが増えているという。

また遊技機のキャラクターに関連したファン向けアイテムの展開も、同社では構想している。

「コロナ禍もあって、時代は大きく動くなか、メーカーも変化していかなければならない。ホール関係者様にとどまらず、ユーザー様、一般業種の関係者様などに、もっと豊丸産業を知ってもらえる存在として『とよマーケット』を充実させていきたい」(大野営業本部長)。

豊丸産業営業本部の大野憲本部長(左)、同社社長室の佐藤健氏(右)。

成熟化に期待

今はまだ課題も少なくないと言われる遊技機のオンライン販売だが、何れにしても始まったばかりだ。仕組みの成熟化が進めば、一般のECサイト同様、購入する側の利便性向上やコストダウンが実現する可能性を秘めている。取組みを先行する2社の動向には目を向けておく必要があるだろう。

レポート後編では、遊技機のオンライン販売について、利用者側となるホール関係者や、オンライン取引を行っていない他メーカー等の声をまとめてみたい。

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