【レポート】“ミリオンゴッド凱旋”の撤去で問われる業界の判断

投稿日:2020年10月12日 更新日:

旧規則機の取扱いに関する21世紀会決議について、順守しない店舗が散見され、関係団体が対応に追われている。いまも市場には約65,000台残っているといわれる高射幸性パチスロ機『ミリオンゴッド-神々の凱旋-』の自主的撤去期限を目前に、あわただしさを増す業界内の動きをレポートする(文=中台正明 フリーライター)。

“凱旋”65,000台
撤去の穴は埋まらない!?

『ミリオンゴッド-神々の凱旋-』は主要6団体が2015年の自主規制で優先的に撤去に努めることとした高射幸性パチスロ機の1つで、今回の経過措置期間延長に伴う21世紀会決議では、当初の認定切れ期限である今年11月をもって外さなければならない。

しかし、同機は現在も多くの店舗で主力機として稼働している。P-WORLDによると10月4日現在の設置店舗数は6,261店舗。設置台数は約65,000台といわれている。

同じく高射幸性パチスロ機の『押忍!サラリーマン番長』が21世紀会決議による撤去期限を迎えても一部店舗で使われ続け、依然として問題視されているが、“ミリオンゴッド凱旋”は設置台数とホールへの貢献度が“サラ番”より格段に上。21世紀会を構成する業界団体の関係者の間では、撤去しない店舗が相次ぐおそれがあるとして警戒感が高まっている。

実際、ホールの同機に対する評価は抜群。都内の中小店舗の営業部長は「11月前に撤去する店は皆無だと思う。稼働、売り上げ、粗利のいずれもあらゆる6号機に勝る」と断言する。約300台のパチスロのうちの1割弱を同機で占める東日本の強豪店のパチスロ担当者も「『沖ドキ!』と並ぶ看板機種で、特に週末の稼働は断トツ。粗利性能も高く、ジャグラーシリーズや6号機を甘めに使って、稼働を維持できている現状は“ミリオンゴッド凱旋”抜きに語れない」と話す。

北海道から九州まで支援先をもつコンサルタントは、同機の平均粗利シェアはパチスロにおける平均設置台数比率(3~4%)をはるかに上回る15~20%と推測。「設置台数比率が5%前後になると、粗利シェアは20~25%。11割分岐の店では『沖ドキ!』と並んで粗利ベスト3に入る」と証言する。

いまも多くのホールで稼働する『ミリオンゴッド-神々の凱旋-』(写真はイメージ)。

関東の激戦区情報に詳しい都内のコンサルタントは「機種単体としての貢献度が高いだけではない」と強調。パチスロユーザーのその日の遊技の基点にもなれば、締めの1台にもなる台だとして、同機を設置しているか否かが店選びの際の有力な判断基準になっているという。

同機の撤去で営業戦略全体が見直しを迫られるとも指摘。皆が異口同音に「代替機はない」と懸念する。スロ専は苦境に追い込まれるだろうというのも共通意見。撤去後はベニヤを張り、同機は倉庫に保管して、競合店舗の動向を注視するホールが少なくないのではないかと見る業界関係者も多い。

自主規制違反店舗には
中古機流通で“罰則”

21世紀会では年内撤去を掲げていた旧規則機のうち、高射幸性パチスロ機を除く一部遊技機の撤去期限を来年1月11日まで延長したが、21世紀会決議の100%順守は、ホールの心情的には危うい状況にあるということだ。

それにすでに足並みは乱れている。同決議では順守に係る誓約書の提出を全国の店舗に求めているが、9月下旬現在、約100店舗が未提出。全体における比率は1%に過ぎないが、有力企業の店舗が多い。誓約書を提出しているが順守していない店舗もあるとされ、“サラ番”を増台するホールも現れているという。“ミリオンゴッド凱旋”の動向次第では一気に決議が瓦解するおそれがある。

そのため、全日遊連をはじめとする関係団体はホールを決議内容の順守に促すべく、8月以降、動きを一段と活発化させている。

打った手の1つがホール関係団体(全日遊連、日遊協、同友会、余暇進、PCSA)の連名による全機連(遊技機・関連機器などの団体が加盟)への協力要請。8月31日付で「旧規則機の計画的撤去推進に関するお願い」と題する文書を発出し、誓約書未提出店舗がいまだにある現状を報告するとともに、21世紀会決議の結果次第では遊技業界の存亡が危ぶまれるとした。そのうえで、「正直者が馬鹿をみない」ためには、全ホールが公平な環境で営業することが肝要だとして、全機連にこれまで以上の協力を訴えた。

全機連は加盟団体に対して、9月2日付で「旧規則機の計画的撤去推進について(お願い)」と題する文書を発出。全機連としても、決議内容の順守について業界が一丸となって取り組み、完遂に向けて推進することがきわめて重要だと判断しているとの認識を示した。

メーカーにおいては決議内容を順守しないホールに対して取引を差し控えるなどの場合もあると仄聞していると言及。全機連加盟の団体にも傘下組合員に通知し、決議が完遂できるよう、順守しないホールに対しての措置について特段の協力を求めた。

ちなみにメーカーは本誌が把握しているだけでも十数社が取引先店舗に当該文書を発出している。全機連の文書はそれと同様の対応を暗に促すもので、業界の重要案件で表舞台に立つことがほぼなかった同団体としては、異例の動きといっていい。

業界ルールを順守しないホールには取引内容を検討する場合があると伝えるメーカーの文書。こうした動きもかつてなかったことだ。

21世紀会としては9月4日付で遊技産業健全化推進機構に対して、健全化推進機構が行っている遊技機検査時に「高射幸性パチスロ機の設置の有無の確認」と「検定、または認定の有効期間が満了した遊技機の設置の有無の確認」を追加するよう要請。機構は9月7日の理事会で協力することを決議し、遊技機検査、計数機検査時に当該確認作業を実施することになった。

主要6団体などで構成する中古機流通協議会は9月14日の会議で全商協と回胴遊商に対して、誓約書未提出店舗には中古機流通の確認証紙の発給などを留保するよう要請。10月5日に再度会議を開いて、21世紀会決議を順守しない店舗への措置を決定した。主な措置内容は以下のとおりで、運用開始は10月19日。

誓約書未提出店舗に対しては、「10月18日までに誓約書の提出がない場合は翌19日から証紙の発給を留保する」「10月19日以降の誓約書提出については、提出日より120日間の証紙の発給停止措置を講ずることができる」と決定。

高射幸性パチスロ機未撤去店舗に対しては、「10月19日以降に設置が確認された場合、即日、証紙の発給を留保する」「当該遊技機の撤去を確認した日より、120日間の証紙の発給停止措置を講ずることができる」とした。

高射幸性パチスロ機以外の遊技機の撤去期限違反店舗に対しても、「違反行為を確認した日より、証紙の発給を留保する」「当該遊技機の撤去を確認した日より60日間の証紙の発給停止措置を講ずることができる」とした。

組合員資格の停止規約は
多くの県遊協が尻ごみ

21世紀会決議を実施する主体はホールなのだが、メーカー・販社団体側がホール団体側に順守を強く求める文書を積極的に通知しているのも今回の自主規制の特徴だろう。

日工組と日電協は8月25日、連名でホール関係団体に対して文書を発出し、一部のホールにおいてはいまだに旧規則機の計画的な撤去に関する決議事項の趣旨を理解してなく、決議事項を守っていないとして、所属ホールへの順守徹底を要請した。

9月16日には日工組・日電協・全商協・回胴遊商が連名でホール関係団体に文書を発出。経過措置期間の延長は業界の自主的な撤去計画を行政が信頼し、特段の配慮のもとに行われた異例の措置であることを今一度、正しく認識するよう求めた。誓約書未提出店舗や21世紀会決議による撤去日を過ぎても使い続けるホールがあることに強い危機感をもっているとして、これを看過することなく、厳正な姿勢で臨んでいくと明言している。

背景には「コロナ禍を考慮したとはいえ、旧規則機の経過措置期間の延長は異例の措置。行政当局が決断してくれたのは業界を信頼したからで、それは6月18日の日遊協総会、6月23日の21世紀会会合での講話でも明らかだ。この信頼を裏切ると禍根を残す」(某ホール関係団体幹部)という危機感がある。

21世紀会の代表を務める全日遊連の阿部恭久理事長も9月18日の全日理事会で、「今回の経過措置期間延長は行政からの信頼に基づくもの」だとして、決議の順守を呼びかけている。

もっとも、メーカー・販社系の団体の文書はどれも含んだような言い回しで、最終的には組合員・会員企業の「任意の判断」にゆだねる形をとっている。先の中古機流通協議会の措置にしても、一部に含みを持たせている。団体として当該店舗に販売しないことを決議するなどして、組合員・会員企業にそれを強要すると、独占禁止法に抵触するおそれがあるからだ。

一方、遊技機や周辺機器のメーカー、販社にとっては21世紀会決議を順守しないホールも顧客。取引を留保するにはそれ相応の大義名分がいる。そこでホール関係団体が推進してきたのが組合員・会員の資格停止に関する規約づくりだった。21世紀会決議に従わないとして組合員・会員の資格停止処分を受けたパチンコ店には、メーカーや販社も「販売を手控える」との判断をしやすいだろうという考えによるものだ。

この方針に基づき、日遊協・同友会・余暇進・PCSAの4団体は9月までに定款変更し、資格停止条項を設けた。それに対して、全日遊連は傘下の51都府県方面遊協の多くが規約づくりに慎重な構えを示し、東京都遊協をはじめとする一部の都府県方面遊協しか同規約を制定していない。9月18日の全日遊連理事会では8月31日時点の状況として、制定したのが3組合、検討中が38組合、制定の予定なしが10組合であることを報告した。10月上旬においても、制定したのは10あまりの都府県方面遊協にとどまっている。

慎重派の代表的な理由は「地元の中小企業団体中央会に打診したところ、好ましくないと言われた」とするもの。事業協同組合は相互扶助の精神のもと、互いの権利を保護し合うことを目的とした組織であり、資格停止の規約はその目的にそぐわないということだ。

21世紀会の方針に
全日理事会では異論も

全日遊連では「正当な理由がある場合は組合員の権利の行使を制限できる」との全国中小企業団体中央会の見解を伝えているが、組合員資格停止の規約づくりに対する都府県方面遊協の反応がよくない理由はほかにもある。

9月18日の全日理事会で上がったのが、「組合離脱を助長しかねない」とする意見。東日本のある理事長は「賦課金でさえ負担になっている組合員店舗は地方では珍しくない。法令では経過措置期間の延長が認められているのに、業界の自主的な撤去期限を順守しないだけで、なぜ資格停止処分の対象になるのか。ならば脱退するとの悪循環になりかねない」と気持ちを代弁する。

21世紀会決議の100%順守のために、関係団体が含みを持ったさまざまな文書を発出するなどして、非協力店舗の抑止力にしようとしている施策そのものを「組合の方針を守ろうとする組合員店舗を苦しめるだけではないか」とする意見も出たという。

“ミリオンゴッド凱旋”を21世紀会決議による撤去期限を過ぎても使い続けるホールが現れたとしても、法的に問題はない。現に“サラ番”を使い続けているホールは所轄署から何の処分も受けていない。そういう店舗が近隣に現れたとき、組合の方針に従順な店舗は顧客を奪われかねない。その展開はどんなに関係団体が努力をしても回避できないにもかかわらず、組合員の資格停止規約まで設けようとするのは、従順な店舗をプレッシャーで追い詰めるだけであるという主張だ。

全日理事会では21世紀会そのものの立ち位置にも議論は進展。「いつから21世紀会は業界の最高意思決定機関となったのか」との質問もあったと聞く。

阿部理事長は、経過措置期間の延長は14団体の総意で勝ち取ったものなので、それに伴う旧規則機の計画的撤去に関する施策も14団体で構成する21世紀会として推進するのが当然と説明。経過報告が十分ではなかったところもあるかもしれないが、迅速な対応を求められていたことや、21世紀会の組織としての至らなさについては将来的に法人格取得を考えていることなどを述べ、長引く議論の収拾に努めたという。

9月18日の全日理事会の模様。理事会後の記者会見では、阿部理事長は、当初の自主的撤去計画では年内中に撤去することになっていた一部の旧規則機の撤去期限を来年1月11日まで延長した経緯を説明。そのうえで、21世紀会決議への理解をあらためて求めた。

契約書未提出店は質問書
団体側は通報・確認体制

経過措置期間の延長に伴う一連の21世紀会の対応に関する不満、懸念は都府県方面遊協の関係者以外からも聞こえてくる。不満は、そもそも高射幸性遊技機問題は製造したメーカー責任であるはずなのに、その話がいつのまにかどこかに追いやられているということ。懸念は、業界上層部の気持ちはわかるが、これ以上“手を打ちすぎる”と公取委に訴えるホール企業が現れるのではないかということだ。

そこで気になるのは関東のあるホール企業の動き。誓約書未提出店舗を抱える同社は出店エリアの都府県方面遊協に対して質問書を出したとの話が漏れ伝わってきている。

当該組合の関係者はいずれも口を閉ざすが、法令上は経過措置期間が1年延長されたのだから、業界の計画的撤去に従うか否かは各店舗の任意の判断でいいのではないのかとか、21世紀会が計画的撤去の決議に至る経緯などを質したのではないかといわれている。「相当な覚悟を感じる」と某ホール経営者。今後の展開を注視すべきだろう。

業界団体の動きで目に留まるのは、ホール関係団体が構築した通報・確認システム「パチンコ・パチスロ産業21世紀会 誓約確認機関」。21世紀会決議を順守していない店舗の情報を広く受け付けるシステムで、順守していないことが確認された店舗の情報は、誓約確認機関が関係団体に通知する。運用開始は中古機流通協議会の“ペナルティ”と同様、10月19日。

“ミリオンゴッド凱旋”の21世紀会決議による撤去期限が迫るなか、これらの施策は非協力店舗への抑止力となりうるのか。「21世紀会の尽力で勝ち得た経過措置期間の延長なのに、決議に従わない店舗まで、何のペナルティも受けず、恩恵に浴するのは納得できない」との声に応えられるのか。業界上層部のかじ取りに注目したい。

◆著者プロフィール
中台正明(なかだい まさあき)
1959年、茨城県生まれ。フリーライター。大学卒業後、PR誌制作の編集プロダクションなどを経て、1996年3月、某パチンコ業界誌制作会社に入社。2019年2月に退職し、フリーとなる。趣味は将棋。

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