新型コロナウイルスの感染拡大によって、今後、継続的に取り組まなければならない感染防止対策。オオキ建築事務所(東京都新宿区)の代表で一級建築士の大木啓幹氏は「建築設計上のエビデンス(根拠)に基づいた、新しいパチンコホールの様式に変化すべき」と提言する。
――以下、大木啓幹氏の提言内容。
新型コロナウイルスの終息には、2年もの期間が必要といわれます。ワクチンが開発され、世の中に行き渡るまでにそれだけの期間を要するということであり、その間は常に感染拡大のリスクにつきまとわれることになります。つまり、すべての集客施設に当てはまることですが、パチンコホールにおける感染防止対策は長期間にわたって取り組まなければならない課題であるということです。
それだけに、応急措置ではなく、建築設計上のエビデンスに基づいた感染防止対策が必要になります。そこで、一級建築士としてパチンコホールを中心に様々な商業施設の建築設計を手掛けてきた立場から、今後求められる具体的な感染防止対策について提言したいと思います。
目次
①一方通行制の導入
「図1」で示しているのは、遊技客同士の不要な接触を避けるための「一方通行制」を導入する考え方です。
入口を1カ所とし人ができるだけ交差しないようにして、入場時には漏れがないように検温を実施。それ以外は出口とし、ホール内の各通路についても一方通行制とするなど、入場から退場までの動線計画を再構築すべきであると考えます。
②島通路幅の拡張
「図2」は島通路内で遊技客が接触しないために必要となる幅を示したものです。
厚労省の「平成30年国民健康・栄養調査(2018年調査/2020年公開)」による人体の平均寸法に基づくと、イスに座った遊技客に対して島通路を通る遊技客が接触しないためには「2.5m以上」の幅を確保することが必要です。また、島通路内で遊技客がすれ違う際の接触を避けるためにも、最低でもこの幅を確保すべきです。
③飛沫防止スクリーンの設置
「図3」は、遊技客の独立性を確保し、咳・くしゃみによる飛沫の拡散を防止するため台間部分に設置する「飛沫防止スクリーン」の考え方です。
飛沫は正面だけではなく、上部にも拡散することが専門家の分析で明らかになっています。そのため、スクリーンの高さを1.7m以上確保することに加えて、スクリーン上部に「返し」を付けることで、飛沫の拡散を防ぐことが有効な策になります。
なお飛沫防止スクリーンの設置にあたっては飛沫感染防止の観点から各都道府県の公安委員会への事前確認が必要です。
④換気回数の把握
密閉空間ではなく、換気がしっかりと行われている施設であるということを遊技客に示すため、自店の換気回数の把握は欠かせません。
「図4」「図5」は、一般的な空調・換気システムにおける換気回数の求め方を表したものです。「図4」の事例は空調機器が天井埋め込み型になっており、パチンコホールに最も多く用いられている空調システムです。「図5」は天井高5m以上の大型ホールで主に用いられている大型パッケージタイプの空調システムです。各図内に換気回数の計算方法を記載しているので、まず自店の空調システムがどのようになっているかを確認したうえで、換気回数を把握することが必要になります。
なお、換気を促進する目的で出入口や排煙窓等を営業中に開放することは、遊技客に「見た目上」の安心感を与えるかもしれません。しかし、それは見た目だけで、実際には空調効率や換気効率を下げてしまうことになるため避けるべきです。従って、換気回数に加えて、換気の仕組みを図入りで示したポスターなどをホール内に掲示し、遊技客に訴求することも有効でしょう。
これからは、感染防止対策の差が集客を左右すると言っても過言ではありません。また、今回のコロナ禍によってパチンコ業界に対するバッシングが加熱しましたが、パチンコをしない人たちからのそうした負のイメージも払拭しなければなりません。そのためにも「新しいパチンコホールの様式」へと変化することが求められます。
◆著者プロフィール
大木 啓幹(おおき ひろもと)
㈱オオキ建築事務所 代表
一級建築士。全国400か所を超える、大型複合施設・商業施設・ホテル施設・住宅等の建築デザインの実績があり、アジアにおいてはカジノ施設の建築デザインの実績を持つ。