【IR HISTORY-議論と実践の軌跡-_第2章】IRはどこから来たのか―― 世界の潮流と日本の選択

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IRをめぐる議論は、しばしばカジノの是非という単線的な構図で語られがち。しかしその背景には、観光政策、都市開発、国際競争といった複数の要素が折り重なってきた歴史がある。世界ではどのような経緯でIRが誕生し、日本の制度化につながっていったのか。海外の事例と国内の動向を時系列でたどり、その起源と政策形成の流れを整理する。

世界に見るIRの起源

これまで述べてきたように、国内ではIRに類似する政策が段階的に展開されてきました。一方で、世界ではどのような多くの人はカジノと聞くと、米国ネバダ州のラスベガスを思い浮かべますが、IRそのものの起源についてはあまり知られていません。ラスベガスの発展過程を分析したある論文では、ホテル機能と飲食機能のパッケージ化が近代的複合リゾートの原型を形成したと結論づけています。さらに、1980年代後半から1990年代にかけて、近代カジノホテルで大きな成功を収めた実業家、スティーブ・ウィンが、ラスベガスのカジノホテルにエンターテインメント要素を融合させたことで、現在のIRモデルが確立したとされています。

そして転機となったのが2002年のマカオです。カジノ経営権の対外開放によりウィン・リゾート(外資)が参入したことで観光客は急増。マカオは「東洋のラスベガス」と呼ばれる存在へと躍進を遂げました。この成功は、単なるギャンブル市場の拡大ではなく、国際観光都市としての競争力強化を象徴する出来事でした。

この動きに強い危機感を抱いたのが、シンガポールのリー・シェンロン首相でした。首相は2005年にカジノ合法化を閣議決定し、国家戦略としてIR政策を推進しました。2010年に《マリーナベイ・サンズ》《リゾート・ワールド・セントーサ》を開業すると、同国はアジア有数の観光拠点として急成長します。ここで重要なのはIRが観光産業高度化の政策ツールとして位置づけられた点です。

この成功事例は日本にも波及しました。安倍晋三氏、橋下徹氏らの現地視察を契機に、国内でもカジノ構想が具体的な政策議論へと転換し、大阪を中心に構想が動き出し、全国規模での議論へと発展しました。シンガポールの成果が、日本におけるカジノ合法化議論を加速させた可能性は大きいのではないでしょうか。IR誕生から政策波及までの連鎖構造を下に整理しています。

カジノ合法化議論が活発に

下の概略年表は、こうした国際的潮流と国内議論の接続関係を時系列で示したものです。

IRの原型は前述したように、1980年代後半のラスベガスホテルの大型開発でした。一方、国内においては1990年代後半に合法化への法改正や経済効果、社会的影響に関する分析研究が進み、福祉活動に貢献できる団体を目指したカジノ学会が設立されるなど、制度化に向けた基礎的議論が積み重ねられてきました。その後、1999年には当時の東京都知事だった故・石原慎太郎氏が『お台場カジノ構想』を提唱し、2000年初頭は全国各地で議論が展開されます。

海外では2005年にシンガポールがカジノを合法化。2010年のIR開業を経て、国際観光競争は新たな段階へ突入し、この流れの中で日本の国会でも国際観光をキーワードにカジノ合法化議論が本格化しました。その結果、2016年に「特定複合観光施設区域の推進に関する法律(通称:IR推進法)」が成立。続いて2018年には「特定複合観光施設区域整備法(通称:IR整備法)」が成立し、制度面での枠組みが整備されることになります。

◆ ◆ ◆

このようにIRはラスベガスを源流に、マカオ、シンガポールの成功を経て発展してきました。そして国際観光競争の高まりを背景に日本においても議論が進み、IR推進法・IR整備法の成立へと至りました。 次回は、IR整備法の目的を再確認するとともに、世界指標で見た日本の現在地、国内におけるIRの存在意義について解説していきます。

鶴 田 一(Hajime Tsuruta

株式会社NRC一級建築士事務所
代表取締役
博士(工学)、一級建築士
オレゴン大学建築学部卒業後、2008年にNRC一級建築士事務所開設。2021年シンガポール都市再開発局主催アカデミー修了。2024年国立東京工業大学博士後期課程卒業後。都市開発及び観光政策分野にて講義を行う。国内外建築賞、芸術賞多数受賞。

◆執筆書
『シンガポールにおけるカジノ合法化検討過程に関する研究』(公益財団法人日本都市計画学会)
『わが国におけるカジノ及びIRをめぐる言説・事象の変遷』(一般社団法人日本観光研究学会)
『IR整備をめぐる候補自治体における議論に関する研究』(一般社団法人日本観光研究学会)
『IR(統合型リゾート)を用いた埋立地における新規都市開発と観光政策に関する研究』(国立東京工業大学博士論文)

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