
数字は事実だが、評価は文脈に依存する。この前提を踏まえなければ、機種評価は容易に誤る。パチスロ『Lヴァルヴレイヴ2』も、導入直後から「期待ほど動かない」「前作に劣る」といった声が散見された。
しかし、こうした印象は統計的観点から慎重であるべきだ。そこには、絶対評価バイアスと相対評価バイアスという二つの偏りが混在しているためである。
まず、絶対評価の落とし穴である。初動の遊技人数・アウト・打込支持率といった数字をそのまま良否で判断する手法は、複数の構造要因を無視しやすい。
機種別の投資レンジの違い、黎明期補正の有無、販売台数による顧客密度の希薄化──。いずれも初動指標を大きく揺らす要素である。
実際、当社の分析では初速こそ前作には及ばなかったが、滞在構造やRv(報酬体験価値)は同単価帯の中で高位に位置し、前作を上回る実力であることが確認された。従って、絶対評価だけで「弱い」と断じるのは理論的に不十分である。

次に、相対評価バイアスである。前作はスマスロ黎明期の象徴的ヒットであり、“熱狂水準”が歴史的に高かった時期の産物である。この特殊な環境と比較すれば、後継機が相対的に見劣りするのは当然であり、これは統計学でいう“比較基準の歪み(reference bias)”に該当する。
成熟市場で登場した本機は、過剰な熱狂ではなく、より実力値を反映した評価が下される環境にある。実際の行動指標では前作を上回る項目が複数観測されており、それでも弱く見えるのは比較基準自体が歪んでいるためだ。
重要なのは、「環境評価」と「ポテンシャル評価」を混同しないことである。導入台数や導入時期といった外的環境に左右されるのが前者であり、「遊技時間」「Rv」「離脱率」など、プレイヤー体験の質を示すのが後者である。
つまり、機種評価に必要なのは、“数字の値”ではなく“数字の意味”である。
・前作と同等の遊技時間=黎明期補正 を除いた実力の発揮
・台あたり人数の低さ=設置過多によ る環境要因
・Rvの高さ=勝ち体験の納得性向上
総じて本機は、“派手な初動がない=弱い”と語るには、あまりに単純化されすぎている。前作のバイアスを外して見れば、体験設計はむしろ洗練されており、前作同等の滞在時間を維持し、報酬体験は一段強まっている。「期待ほど動かない」と映るアウトや人数の低下は、性能の弱さではなく、外的環境が生んだ現象にすぎない。
誤解してはならないのは、本稿が「『Lヴァルヴレイヴ2』こそ最良である」と主張するものではないという点だ。
同一投資レンジにおける絶対評価という観点に立てば、いまだ『L東京喰種』が頭一つ抜けた機種であり、そのポテンシャルは群を抜いている。本稿で論じているのは、前作との相対評価に潜むバイアスと、その補正の必要性にすぎない。
データ分析とは数字を読むことではなく、“数字が語っていない構造”を読むことである。市場の声よりもデータの構造を読む姿勢こそが、バイアスに強い評価軸をつくり、精度ある意思決定を支える唯一の方法である。
◆プロフィール

𠮷元 一夢 よしもと・ひとむ
株式会社THINX 代表取締役。データアナリスト・統計士・BIコンサルタント・BIエンジニア。文部科学省認定統計士過程修了。現在は、IT企業のシステム開発やソフトウェア開発にアドバイザリーとして従事しながら、パチンコホール・戦略系コンサルタントとして活動。



