【レポート】基幹産業に成長したアニメ市場、パチンコ業界の戦略的資産に

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急拡大を続けるアニメ市場。その存在はもはや国家の基幹産業であり、縮小傾向にあるパチンコ業界にとって新たな成長戦略を描く資産となり得るだろう。

3兆円市場を突破 国家の基幹産業へ

日本のアニメ産業は「サブカルチャー」の域を超え、国家戦略に組み込まれる基幹産業へと成長した。その象徴が市場規模の拡大である。日本動画協会「アニメ産業レポート2024」によれば、2023年には3兆3,465億円(前年比114.3%)と史上最高を更新した。

成長のスピードも際立つ。市場が1兆円から2兆円に拡大するのに16年を要した一方で、2兆円から3兆円に到達したのはわずか7年にすぎない。海外市場とネット配信という二大エンジンが、この急成長を牽引した。

内訳をみると、海外市場は1兆7,222億円に達し、国内市場を逆転。全体の成長額の約61%を占めるまでに拡大した。国内市場も前年比110.6%と堅調で、3年連続の最高更新を果たしている。さらに政府は「新たなクールジャパン戦略」において、2023年までにコンテンツ海外展開20兆円を目指す方針を掲げ、その中核にアニメを据えた。

市場を下支えするパチンコ業界

アニメ市場の収益基盤において、パチンコ業界は大きな存在感を示している。「遊興」分野(パチンコ・パチスロ向けのライセンス収入を含むカテゴリー)は3,370億円(全体の10.1%)を占め、配信(2,501億円)を上回る規模となった。

この数字が示すのは、アニメとパチンコの関係が双方向であるという事実だ。パチンコ業界にとってアニメIPは集客や話題性の源泉であり、アニメ業界にとっては新作開発や体制強化を可能にする資金源である。

例えば、遊技機1台の販売価格が50万円でライセンス料が1%なら、1台あたり5,000円が制作側に入る計算となる。さらに、通常はMG(ミニマムギャランティ)が設定されており、その基準が1万台であれば、1機種あたり5,000万円が遊技機メーカーから制作サイドに支払われる。人気タイトルでは数万台規模の販売に達することから、その場合は1作品で数億円規模の契約となる。こうして得られた資金は、制作体制の強化やグローバル展開の加速を支える原動力となってきたのである。

「アニメ産業レポート」もまた、パチンコ業界の市場規模は減少傾向にあるとしつつ、アニメファン層を狙ったタイアップ機が確実に集客効果を発揮していると分析する。近年はアニメ放映直後にタイアップ機が登場する事例が増え、この傾向は今後も続く見通しだ。

■アニメ産業市場全体と遊興市場の推移(単位:億円)出典:公表の統計ならびに日本動画協会が行っているアンケートに基づき独自算出・日本動画協会 独自算出

新規ファン獲得のポテンシャル

パチンコ業界にとって避けて通れない大きな課題の一つが、新規ファンの獲得である。参加人口の縮小が続くなかで、若年層やライト層を呼び込むことはもはや必須といえる。その突破口として注目されるのがアニメIPの活用だ。

一見すると、すでに業界はアニメIPを大きく取り入れているようにも見える。実際、メーカーは数多くのアニメIP搭載機を供給し、ホールもそれを積極的に運用しているためだ。だが、「現状、多くのホールやメーカーはパチンコファンを一括りに扱い、既存ファンを想定したマーケティングに偏っています」と指摘するのは、「好きなアニメ×遊技」をパチンコの唯一無二のコンセプトとして掲げ、新規ファン獲得に向けた施策を提案する㈱Ready Beatleの西眞一郎氏だ。

西氏は、こうした状況の結果として業界側の販促アプローチが新規ファンに届いていない点を問題視する。さらに、既存ファンのニーズに合わせた結果として高射幸性の機械が多くなっているため、せっかくアニメIPに惹かれて新規ファンが遊技を試みても「お金がかかりすぎる」といったネガティブな印象を抱きやすく、ファンとして定着につながらないリスクがあるともいう。

「本来、新規ファンと既存ファンは切り分けて考えるべきであり、新規ファンを開拓するには彼らに合わせたアプローチが不可欠です」と西氏は強調する。

その具体的な実施例が『e東京リベンジャーズ』との連動イベントだ。西氏はサミーや導入ホールと協力し、原作キャラクター佐野万次郎役の声優・林勇氏を招いたトークショーや記念グッズのお渡し会を実施。告知はホール内にとどまらず、アニメ公式アカウントや林氏の公式アカウントを通じて広範に発信された。その結果、《マルハンメガシティ横浜町田》でのイベント開催時には262名が参加し、うち約19・1%がこのイベントをきっかけに初めてパチンコを体験(=新規ファン獲得)したという。

《マルハンメガシティ横浜町田》で実施されたアニメファン向けのイベント。この日をキッカケにパチンコを初めて遊技する人も多く、業界側にとっても貴重な場となった。

■『東京リベンジャーズ』イベント参加者のパチンコ体験の有無

回答者の19.1%が「東京リベンジャーズ」のイベントをきっかけにパチンコを初体験。アニメIPの活用が新規ファン開拓に効果的であることを示している。また今回のイベントを機にパチンコを初体験したユーザーのうち、約66%がSNS経由(東リベ公式アカウント、林氏の公式アカウントでの告知)でイベントを認知した結果となっており、新規ファンの開拓にはSNSの活用が必須と言える。

こうした事例は、アニメIPが短期的な集客ツールにとどまらず、新規ファン獲得の強力な手段となり得ることを示している。

さらに、アニメファンには若年層や女性層が多いという特性がある。したがって、パチンコ業界がアニメIPの活用で新規ファン獲得に成功すれば、そのまま若年層や女性層の拡大にも直結する。加えて、日本のアニメIPは海外からの支持も高く、ホールへのインバウンド客取り込みにも有力な手段となり得る。こうしたライト層の獲得が、さらなるライト層獲得を呼び込み、ファン層の裾野拡大という好循環を生み出す可能性もあるだろう。

今後は作品の世界観やキャラクター性、ファンコミュニティを理解し、ホールのブランド価値と結び付けることが重要となる。ホール空間やプロモーションに一貫性を持たせれば、アニメファンが“作品の延長線上で遊技を体験できる”環境を提供できるに違いない。

総じて、アニメIPはもはや単なるライセンスではない。ホールとメーカー、さらには業界団体が連動し、パチンコ業界の戦略的資産として位置づけるべき時代に入った。アニメ市場のポテンシャルをいかに活かすかが、今後の持続的発展を左右するだろう。

SANKYOは人気アニメ「ブルーロック」の大規模イベントに実機『eフィーバーブルーロック』を展示。女性ファンの多いコンテンツだけに、こうした層をいかにホール来店につなげるかが、遊技人口回復の鍵となる。

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