はじめまして、株式会社THINXの𠮷元一夢(よしもと・ひとむ)と申します。今回から縁があって「WEBグリーンべると」に寄稿させて頂くこととなりました。
私は普段、遊技機を独自の手法で分析し、ホール企業様に情報提供することを生業とさせて頂いています。本稿では主に、トレンドの遊技機をピックアップし、独自の観点から評価、ポテンシャルなどについて論じさせて頂ければと考えています。お付き合いのほど、よろしくお願い申し上げます。
※以下、読みやすさの観点から丁寧語、謙譲語を省いた表記とさせて頂きます。
第1回目は今、話題の「スマスロ」を取り上げることとした。本題に入る前に、先にお伝えしたいことがある。データ分析の領域では、登場した製品のインパクトが見るからに強烈で、直感的な驚きを与える「木」であるほど、「木を見て森を見ず」というバイアスが発生しやすくなると語られている。
パチンコ業界でも幾度となく発生し、その度に顧客にとって実質的な価値をもたらすのかどうかを見極める目が曇る。ゆえに、「木」が顧客にどのように映り、どのような体験をもたらしたのか、こうしたファクトフルネス(※先入観や思い込みを排除したデータに基づいた目線)な文脈に従って「森」を見なければ、課題解決はおろか、課題設定すらできやしないと考えている。
本稿では、アウトや売上などの「台データ」から個別機種の良否は問わないでおこうと思う。それよりも、「木」として強烈なインパクトを与えた「スマスロ」が、プレイヤーの遊技文脈という「森」において、どのように映り、なにを感じて遊技をしていたのか。「顧客データ」から読み解いてみたいと思う。
遊技機の魅力はどれほど上昇したのか
われわれの分析では遊技機の魅力を測るモノサシを「勝ちの魅力」と呼ぶ、「勝ち率」「勝ち金額」と独自の分析指標「Rv」を使い、導入から1週間で遊技機のポテンシャルの度合いを分析している。
「Rv」とはReward value(リワードバリュー)の略称で、褒美の値・報酬値という意味だ。「勝ち率×勝ち金額」の算術を用いて、遊技機の魅力となる「勝ちの魅力」を総量的にとらえることを目的としている。「Rv」の値が大きければ大きいほど「勝ちの魅力」が高い遊技機であることを意味する。
こういった指標を元に「スマスロ」を解析したが、これまでの遊技機とは明らかな違いが表れた。具体的には以下の点が、これまでの遊技機とは異なる結果となっている。
・「勝ち金額」:増加
・「Rv」:上昇
・「勝ち率」:横這い
「LバキL3」(以下、「バキ」とする)と「L革命機ヴァルヴレイヴD」(以下、「ヴァルヴレイヴ」とする)の「勝ち金額」は、これまでとは比べものにならないほど高い値を示している。そして、その影響を受け驚異的な「Rv」を示した。
一方、「LアナザーリノヘブンCC」と「L HEY!エリートサラリーマン鏡PA4」(以下、「鏡」とする)は、「メダルあり6.5号機」と大差のない結果に留まったことから、「レギュレーションの違いを発揮できなかった」といえるかもしれない。したがって、「スマスロらしい」という意味では「バキ」や「ヴァルヴレイヴ」のほうがしっくりくる。
その証拠に現行機では、「P新世紀エヴァンゲリオン15未来への咆哮」「P Re:ゼロから始める異世界生活 鬼がかりver.M08」の「Rv」6,900が、2021年から起算して最も高い値であったが、「バキ」と「ヴァルヴレイヴ」は、おおよそ1.2倍高い「勝ち体験」の提供を行える遊技機として、新たな境地を切り開いたと評価できるだろう。参考までに主な現役パチスロ機と主力パチンコ機の「勝ちの魅力」における各指標を表にまとめた。
■表1.勝ちの魅力(©SUNTAC「TRYSEM」よりデータ引用)
機種名 | 勝ち率(%) | 勝ち金額(円) | Rv(v) |
頭文字D | 35.7 | 14,820 | 5283 |
番長ZERO | 34.7 | 16,620 | 5774 |
このすば | 36.7 | 12,690 | 4660 |
カバネリ | 31.4 | 19,180 | 6017 |
新鬼武者2 | 33.9 | 18,970 | 6421 |
ヴァルヴレイヴ | 31.7 | 25,920 | 8206 |
バキ | 26.4 | 30,500 | 8046 |
リノヘブン | 27.0 | 18,590 | 5023 |
サラリーマン鏡 | 36.7 | 18,730 | 6872 |
エヴァ15 | 23.7 | 29,230 | 6928 |
Re:ゼロ | 27.6 | 25,280 | 6970 |
課題は存在しないのか
先述したとおり、「バキ」と「ヴァルヴレイヴ」の「勝ちの魅力」は別次元にある。しかし、その反面で課題も浮かび上がってきた。それは「負け金額」や「負担感」(1人あたりアウト×コイン単価)の増加である。これらは「勝ちの魅力」と二律背反の関係にあるものとして至極当然な事象であるも、業界の課題である「遊技人口問題」に従えば課題設定しておくべきだろう。
実際に「バキ」と「ヴァルヴレイヴ」の遊技時間は、「勝ちの魅力」の増加にあわせ影響を受けた様子はうかがえない。むしろ「鏡」のほうが良好な値を示している。したがって、遊技機の魅力に身を委ねるだけではなく、意図して「遊びやすさ」をコントロールする術も追及していくべきだろう。
以下にスマスロ主要3機種について、「負け金額」「負担感」「遊技時間」を表にまとめてみた。
機種名 | 負け金額(円) | 負担感(円) | 遊技時間(分) |
サラリーマン鏡 | ▲11,620 | 10,508 | 97.9 |
バキ | ▲12,680 | 12,212 | 94.0 |
ヴァルヴレイヴ | ▲14,850 | 12,901 | 88.0 |
総評
あえて「台データ」にスポットをあてずに書き記した。「台データ」だけを切り取れば「鏡がすこぶる稼働した」というシンプルな結論になるだろう。しかし、ファクトフルネスな「森」を知れば「鏡」の評価もまた違った印象にならないだろうか。
「勝ちの魅力」は「メダルあり6.5号機」と大差がないことから、遊技者目線では「S パチスロ甲鉄城のカバネリ ZR」や「S新鬼武者2ZC」と一括りにされ、イニシアチブが失われていくスピードが速くなるかもしれない。反対に「バキ」や「ヴァルヴレイヴ」のほうが「スマスロらしい」存在として、現段階では唯一無二のポジションを築きやすいだろう。
おそらく今後も一括りに「スマスロ」といえども、「鏡」のような「メダルあり6.5号機」に近い「勝ちの魅力」を有した機種があれば、そうではない「バキ」や「ヴァルヴレイヴ」のような機種も一方では登場するだろう。ゆえに、プレイヤーの嗜好や欲求にあわせた戦略構想が重要だと考えている。
つまり、「スマスロだから…」「メダルあり6.5号機だから…」という文脈ではなく、「勝ちの魅力」や「遊びやすさ」などのサイコグラフィックデータ(=嗜好、価値観、購買動機といった心理的属性データ)に基づいたマーケティングが課題解決の近道になると感じている。
とまれ、先陣としての役割は果たせただろう。今後に期待している。
◆プロフィール
𠮷元 一夢(よしもと・ひとむ)
株式会社THINX 代表取締役。データアナリスト・統計士
1986年生まれ。文部科学省認定統計士課程修了。現在は、IT企業のシステム開発やソフトウェア開発にアドバイザリーとして従事しながら、パチンコホール・戦略系コンサルタントとして活動。そのかたわら、2021年、会員制情報配信サイト「THINX-LAB.」をリリースし、知見やノウハウの提供を開始。2022年、業界紙「TRYSEM CROSS」を出版し、現在も刊行中である。