
改正労働施策総合推進法の施行に伴い、10月1日から企業に対しカスタマーハラスメント対策を義務付ける規定が本格的にスタートした。
法では、規模に関わらず、全ての事業主に対し、顧客等からの悪質な言動から労働者を保護する適切な措置を講じることが求められている。
今回の義務化において、法律の条文上、対策を怠った企業に対する直接的な刑事罰や罰金といった明確な罰則規定は設けられていない。もちろん、行政からの報告要請に対して怠慢や虚偽があった場合の過料や、是正勧告に従わない場合の企業名公表という社会的リスクはある。しかし重要となってくるのは、カスハラへの組織的対策を放置したまま、従業員が精神疾患や離職に追い込まれた場合、企業が安全配慮義務を怠ったとして、企業側が民事上の多額の損害賠償責任を負うリスクだろう。
以前ほどではないにせよ、依然としてホールには、勝ち負けに対する不満や、店内ルール違反への注意をきっかけに、現場スタッフが遊技客から、苛烈な暴言や理不尽な要求を直接受けやすい環境が存在する。「多少の不満や暴言は避けられない」という意識もあり、ともすれば現場スタッフが1人で過剰なクレームを抱え込んでしまいがちなのが実情だ。
業界内の動きとしては、《キコーナ》などの屋号で全国展開するアンダーツリーグループが、2024年9月という、実に2年以上も前の段階で「カスタマーハラスメントに対する基本方針」を策定し、公表している。いち早く現場の保護に踏み切った同社の姿勢は、ホール経営におけるリスクマネジメントだけでなく、従業員保護の観点から極めて先進的な取り組みと言えるだろう。
同社の基本方針では、従業員が心身ともに安心できる職場環境と、顧客との健全な関係性の維持が不可欠であると位置付けている。従業員が誠実な対応を心掛けることを前提としつつ、身体的・精神的な攻撃、侮辱や差別的発言、土下座の要求、プライバシー侵害やSNSでの誹謗中傷、長時間の拘束などをカスタマーハラスメントと明確に定義。これらの行為が認められた場合にはサービス提供を中止し、警察や弁護士等と連携して適切に対処する姿勢を表明している。さらに社内施策として、対応マニュアルの策定や相談フローの構築、従業員向け研修を推進し、現場を守る体制整備を進めている。
対策の根幹は、ハラスメントに対する明確な方針の提示と、トラブル発生時の組織的な対応ラインの確立だ。現場では、悪質な言動に対して一般スタッフ個人に対応を続けさせず、即座に役職者や本部に引き継ぐ仕組みや、毅然として退店を促すといった明確な判断基準が不可欠だ。
これからのホール経営において、顧客満足(CS)の追及は、従業員の労働環境の安全や安心感(ES)と表裏一体の関係にある。不当なハラスメントから大切なホールスタッフを組織として断固として守り抜く姿勢を示すことこそが、人材の定着に直結し、持続可能なホール経営と健全な業界の発展を支える強固な基盤となるのではないだろうか。

