
広告宣伝ガイドラインの制定・改定を経て、業界が一致団結して目指すべきだった「適正な広告の姿」。しかし今、一部ホールによるSNS等を用いたグレーゾーンの突破や、第三者メディアを装ったルールの骨抜き行為が後を絶たない。網の目をすり抜ける「いたちごっこ」が先鋭化する陰で、行政担当官からの苦言や懸念の声は日増しに強まっている。真面目にルールを遵守するホールほど不利益を被るいびつな現状は、業界全体のモラル低下を招くだけでなく、再び厳格な行政指導の時代へと逆行させる危険性を孕んでいる。短期的な集客と引き換えに、業界全体の未来を差し出すような営業スタイルは、果たして持続可能と言えるのか。横行する「抜け穴探し」の構造的要因は何なのか。立ち返るべき、「広告宣伝に対する根本的なマインドセット」を再考した。
この記事のポイント
- 広告宣伝ガイドラインの「抜け穴」を狙うSNS投稿や第三者を介した示唆行為が横行している。
- 現場への数値プレッシャーとガバナンスの欠如が、グレーな広告を助長している。
- 「おすすめ」表示など、誰もが理解できる公正な共通ルールの活用が求められている。
示唆行為の横行に
「今はカオスだ」
「まさに今はカオスといえる状況だ」と、あるホール関係者は最近の広告宣伝のあり方をこう表現する。遊技機の射幸性が高まるにつれ、ホールの広告宣伝もユーザーの射幸心に直接訴えかける方向へと傾斜しやすくなっている。その結果、表現が先鋭化するだけでなく、隠語やグレーゾーンを狙った変則的な手法に向かうという構造的な歪みが顕在化している。
グレー広告の手法は、主に以下の3つのパターンに整理できる。
第一に、SNSやオープンチャットを悪用した短期間の投稿による即時的な示唆行為だ。ホール関係者が高設定をうかがわせるデータ画像を投稿し、僅か1日程度で消去するケースが後を絶たない。短期間で消去する行為自体がグレーな認識の証左だが、証拠を残さず当日の集客メリットだけを得る手法が常態化している。中には「この台は設定6で、このグラフ」といった、直接的に高設定を連想させる投稿まで散見される。

コンプリート達成の事実に触れる発信は条件付きで容認されているが、ガイドライン違反と疑われる投稿もSNSでは散見されている。イラストはイメージ。
第二に、来店演者・取材を介した事前情報の外部共有と漏洩だ。演者がSNSで特定のホールや機種を事前に告知して設定投入を示唆するにとどまらず、あらかじめホール側から当日の設定情報や傾向が共有されているケースすら存在するという。
第三に、特定の知識層に向けた隠語による暗号的示唆である。「エビ」「アンコウ」といったかつての設定示唆の隠語を用い、「今日の〇〇はエビがうまい」などと投稿して、特定のユーザーだけに情報を伝える脱法的な行為も横行している。

インフルエンサー等にホールの設定情報を提供し、SNS等にて設定状況を示唆する表示を行わせた是正勧告の事例(赤線での囲み部分)。こういったSNS等を用いた広告ガイドラインの抜け穴を探る行為は、いまだ各所で燻り続けている。
利益を追う現場
押し殺されるモラル
こうしたグレーな広告が蔓延する背景には、経営面と集客面の双方における構造的な要因が存在する。
経営面の要因として挙げられるのが、現場への過剰な数値プレッシャーとガバナンスの欠如だ。あるホール関係者は生々しい実態を次のように告白する。「現場には厳しい粗利目標が課され、達成のために店長が無理をしてグレーな手法に踏み込む。問題が表面化しても店長が勝手にやった形になり、経営層は知らないふりを決め込む。大手でも十分に管理できていないケースがあり、中小も『大手がやっているから』と追随せざるを得ない」と苛立ちを隠さない。
集客面の要因として挙げられるのが、ターゲット層の極端な偏りと新規開拓の放棄だ。現場は手っ取り早く利益を確保するため、ヘビーユーザーの集客に注力せざるを得ない。その結果、広告内容は射幸性を煽る方向へ偏重し、ガイドライン制定時に掲げられた新規ユーザーやライト層を呼び込むための広告宣伝は完全に後回しにされている。

出典:PAA「ぱちんこ広告実態調査 2025年版」
こうした状況に対し、業界の自主的な規制・監視は強化され続けている。広告宣伝ガイドラインに基づく通報件数は、初年度の2023年に約600件、是正勧告約300件だったものが、2024年には通報約2,500件、是正勧告約650件、2025年には通報3,000件を超え、是正勧告が1,000件を突破した。数値の増加は一定の監視機能が果たされていることの裏返しでもあるが、同時に違反行為そのものが止んでいない事実を明確に示している。
行政当局も各地の総会等で広告宣伝を巡る現状について、「こうした状況が続けば、自主規制の仕組みそのものに疑念を抱かれ、業界全体にとって大きなマイナスとなる」と苦言を呈している。しかし現実には「やったもん勝ち」の構造が放置され、前述のホール関係者からも「グレーゾーンが残っている限り、そこを突いたホールが短期的には集客メリットを得てしまう。曖昧なままにせず、むしろルールを厳しくした方がいい」とルール強化を求める声すら上がる。

警察庁保安課の保坂啓介課長(当時)も、6月の日遊協総会で、広告宣伝を巡る現状に懸念を表した。
この問題の本質は、真面目にルールを守るホールが損をし、潜り抜けた不真面目なホールが得をするという、公平性を欠いた市場環境にある。
この不条理を打開する処方箋の一つが、ガイドラインで公式に認められている共通ルール「おすすめ」表示の意義を正しく理解し、積極的に活用すべきだという提言だ。
同表示の推進を訴えるホール関係者は、「ヘビーユーザーにとどまらず、新規客やライト層、ミドル層といった幅広い遊技客に対し、遊技機のゲーム性やキャラクターの魅力について、おすすめ機種を堂々と提示できることの計り知れないメリットにもっと目を向けるべきだ」と強調する。
メガホール化が進み、何百台もの遊技機が並ぶ今の環境において、事前の情報を持たない一般客や初心者が迷わず台を選ぶことは容易ではない。そうしたユーザーにとって、店舗が行える「おすすめ」表示は、それぞれの遊技機のゲーム性が持つ特徴を理解して楽しみながら、遊技台を選ぶための不可欠な道標となりえる。
さらに本質的なのは、この表示がもたらす健全さと公平性だ。「おすすめ」は一部のプロやクローズドなチャットだけに限定された裏情報ではなく、店を訪れる誰もが等しく理解できる公の共通言語となる。店側から提示された標識を頼りに、その信頼度を実際の遊技体験を通じて推し量っていく。そこから先は店側と遊技客との健全な駆け引きであり、それこそがパチンコ本来の楽しさの一つであるはずだ。
もっとも、「おすすめ」表示は、あくまでも「遊技機」が持つゲーム性やキャラクターの面白さ、楽しさを伝えるものであって、性能改変や設定示唆をうかがわせることを目的とした「おすすめ」は禁止ということには変わりないことも絶対に忘れてはならない。
問われる公平性
変質する娯楽の姿
ホール関係者は、「遊技の結果として勝敗が出るのは当然だが、問題なのは店に入る前の段階で情報の有無により差がついている状態。クローズドなチャットや一部の演者を通じて事前情報を得た人間だけが得をし、何も知らない一般客が皺寄せを受ける構造が放置される以上、決してファン人口が増加するとは思えない」と厳しく指摘する。

コメントから見える課題の構造としては、ペナルティ不在による「やったもん勝ち」状態の解消が最優先課題といえる。また、費用対効果と顧客還元への疑問としては、過度なイベント費用を見直し、既存顧客へ還元できる環境づくりを望む声が多数だった。出典:PAA「ぱちんこ広告実態調査 2025年版」
いずれにせよ、このまま抜け道を探る「いたちごっこ」が放置されるのならば、ライト層や新規客は置き去りにされ、衰退は加速する一方だ。
本来、身近な娯楽として誰もが手軽に楽しめるはずのパチンコ・パチスロは、一部の人だけが情報を握り、限られたヘビーユーザーが高リスクな勝負を繰り広げる閉鎖的な空間へと変質しつつある。このカオスな広告宣伝の果てに待っているのは、庶民が日常的に親しむ「大衆娯楽」という看板の決定的な崩壊であり、一部マニアとハイリスクギャンブラーのためだけの過酷な環境へと変貌していく未来にほかならないだろう。

