
記憶に新しい7月の熊本地震や8月の千葉、石川、富山の豪雨など、年を追うごとに自然災害が激増・激甚化している。9月1日の「防災の日」を機に、改めて足元の防災体制を見直すホールも多かったのではないだろうか。それに、地域貢献という視点で見れば、今やホールの災害対策は、一企業の事業継続計画にとどまらず、地域社会との連携をいかに構築するかという「地域インフラとしての存在価値」を問うフェーズに入っているともいえるだろう。
パチンコホールが持つ基本的な防災ポテンシャルは高い。例えば、堅牢な構造の立体駐車場は浸水被害時の車両退避場所や垂直避難場所として機能し、自家発電設備、飲料・備蓄品、自家水道施設などを備えた店舗は、大規模停電時や断水時の貴重な物資供給拠点となり得る。実際、宮城県多賀城市では、東日本大震災時に津波が押し寄せ多くの指定避難所が機能不全に陥る中、パチンコ店の立体駐車場等へ住民らが駆け込んだ。スタッフの誘導のもと、溢れ出る水から逃れた人々が屋上で一夜を過ごし、九死に一生を得た。波の力を受け流す自走式立体駐車場の構造特性と現場の機転がかみ合い、命を繋ぐ避難所として機能した実例だ。
業界でもこうした経験や設備を活かし、防災協定を自治体と締結する企業や組合が増加している。また余暇進では、災害時に避難先として受け入れ可能な店舗を可視化した「全国パチンコ店舗避難所ガイド」をウェブ上に公開している。
課題はそれら取り組みの「認知と運用」だ。せっかく過去の防災実績や優れた避難ガイドが存在しても、肝心の地域住民に届いていなければ認知されているとは言い難い。発災直後の混乱の中で、住民が自力で情報を探して辿り着くのは容易ではなく、知られていなければ有事の際に機能せず、せっかくの準備や善意が埋もれてしまう懸念は拭えない
認知が拡がりきらない背景には、自治体との協定締結にとどまり、実効性を高める活動へ踏み込めていない点にある。ハザードマップや避難計画に位置付けられていなかったり、行政側の心理的ハードルなのか、共同訓練などの具体的な連携に踏み込みづらかったりする側面もあるだろう。店側としても、「セキュリティや事故時のリスク管理を考えると、どこまで被災者を受け入れるべきか判断が難しい」と葛藤する声があるのも実情だ。営業時間外の発災時におけるスタッフの集結体制や、避難者の動線分離といったオペレーション上の不確定要素も残されている。
その上でも、やはり求められるのは、ホールが備える設備や取り組みを、地域住民にとっての「当たり前の選択肢」として定着させる地道なアプローチだ。日常的なSNSや店頭POP、チラシなどを通じて「避難協力店」である旨を発信し続けるほか、避難訓練に駐車場を提供するなど、平時から顔の見える関係を築くことが有事の際の駆け込みやすさを生む。優れた設備や取り組みを宝の持ち腐れにせず、いかに地域住民の安心へと結びつけていけるかが、今後のステップになるだろう。

