
顔認証AIによって、リアル店舗でも来店客一人ひとりの履歴や行動を継続的に捉えられる時代になりました。「想像上の顧客像ではなく、実在する個客を起点に施策を考える」。リアル店舗のマーケティングは、いま大きな転換点を迎えています(文=髙橋和輝/ピーメディアジャパン代表取締役)。
この記事のポイント
- 顔認証AIにより、施策の効果を来店客一人ひとりの履歴で検証できる。
- 施策参加者の再来店や離脱を個人単位で把握し、F2・F3転換に活用できる。
- 想定顧客像ではなく、実在する顧客と履歴を起点に施策を考えられる。
顔認証AIの活用によって、リアル店舗のマーケティングは変わろうとしています。これまで合計値でしか見えなかった来店客を、一人ひとりの「実在する個客」として捉えられるようになるからです。
例えば、「ファン感謝デー」の集客施策を考えてみます。従来は施策後に客数や売上、アウトなどを確認し、結果を振り返るのが一般的でした。しかし、客数が増えても、それが常連客なのか、初来店客なのか、久しぶりに戻った客なのかまでは分かりません。こうした課題を補う手法の一つとして、ペルソナを設定し、想定する顧客像から施策を考える方法も用いられてきました。
しかし、顔認証AIを活用すると、この前提が変わります。来店客一人ひとりに来店頻度や前回来店日、接客履歴などを紐づけられるため、「ファン感謝デーの客数130人」ではなく、「この130人の顔と履歴」が見えるようになります。
すると、毎週来る常連客、3ヵ月ぶりに戻った客、イベント後に再来店した客など、それぞれに応じた接客が可能になります。優れた店長が経験と記憶で行ってきた対応を、店舗全体で再現できるわけです。Apple Storeやラグジュアリーブランドには、個客履歴を見ながら接客する「クリエンテリング」という手法があり、そのホール版ともいえる仕組みです。
さらに重要なのが、施策そのものが顧客データとして蓄積されることです。例えば時差開放を行えば、対象機種の遊技客を記録できます。施策を打ちっぱなしではなく、「誰が参加したか」が分かる参加者名簿付きの資産になるのです。
そして、第1回目の施策に参加した客のうち、何人が次回も来店したのか。2回続けて来店した客を、どう定着につなげるのか。反対に、第1回には来たものの第2回には来なかった客は誰なのか。EC業界で重視されるF2・F3転換(初回利用者を2回目、3回目の利用につなげること)や離脱管理を、リアル店舗でも個人単位で行えるようになります。
もちろん、これは「ファン感謝デー」の施策に限った話ではありません。賞品企画、イベント、新台導入、接客、アンケートなど、各施策について「どの層に効いたか」ではなく、「誰に効いたか」を検証できることに本質があります。
マーケティング理論はこれまで、顧客情報を蓄積し、一人ひとりとの関係を深める考え方が発展してきました。ただ、リアル店舗では、会員カードを提示しない客を継続的に識別することが難しく、顧客を一定の層に分けたり、代表的な人物像を想定する必要がありました。顔認証AIは、その制約自体を取り払います。
つまり重要なのは、「ペルソナの精度が上がる」のではなく、「ペルソナが要らなくなる」ということです。想像上の顧客像ではなく、実在する顧客と履歴をもとに施策を考えられるからです。
江戸の商人は大福帳に客ごとの取引を書き留め、御用聞きは一軒一軒の好みを覚えて商売をしていました。顔と履歴をもとに商売をすることは、商いの原点です。大量販売の時代に失われた「顔」を、AIによって取り戻す。変化の本質は、そこにあるのではないでしょうか。
個客マーケティングで押さえたい点
施策の効果を客数や売上の合計値だけで判断せず、誰が参加し、次回も来店したのかまで追跡して、個客単位の定着につなげることが重要です。
◆プロフィール
髙橋和輝株式会社ピーメディアジャパン代表取締役。大前研一ビジネススクール出身。18歳から現場一筋で、ホール企業勤務を経て、コンサルタントとして独立。業界初のホール企業向けサブスクサービスを12年運営。現在はパチンコ特化型BtoBプラットフォームを展開(2024年取引額約6.5億円)し、ホール営業×AIを開発中。




