停滞が続くパチンコ市場に新たな熱をもたらす「LT3.0プラス」。だが、その勢いが市場の再成長へと繋がるかどうかは、まだ見通せない。
令和7年7月7日より導入が始まるLT3.0プラス対応機が、近年のパチンコ市場において稀に見る高い注目を集めている。7月7日という語呂の良い日程を皮切りに、お盆前までに10機種超が市場に投入され、全国の導入台数は12~13万台規模に達する見込みだ。導入規模が約3万台に達する有力タイトルもあり、販売面でも活況を呈している。
LT3.0プラスは、LT2.0以前と比べ、スペック面で大きな変更が加えられた点が特徴だ。まず「3.0」の部分では、LTによる出玉の全体比率が従来の2/3以下から4/5以下へと緩和された。これにより、LT突入率やLT比率を高めたスペック設計が可能となり、より射幸性の高いゲーム性が実現しやすくなる。また、初当たりを含む出玉期待値の上限も6400個未満に引き上げられたことで、例えば大当たり確率1/349の機種でもチャージ当たりを搭載せずにスペック設計ができるようになった。これらはスマパチ(e機)に限って適用されるものであり、スマパチ普及の後押しとなる可能性もある。
加えて、「プラス」の部分においても時短仕様が大幅に拡張された。たとえば、CZ(チャンスゾーン)として機能するような演出を設けることで、初当たりに依存しないRUSH突入ルートが新たに設計可能になったほか、大当たりを重ねるごとにRUSH性能(継続率)が段階的に上がるスペックも実現できる。これらの進化により、単に出玉性能を競うだけでなく、多様なゲーム性が提供される土壌が整いつつある点がポイントとなっている。
■LT3.0プラスの主な特徴
高まる熱気の陰で見つめる現実
ホール関係者の期待感も上々だ。今年、集客の仕掛けを行う上ではこのタイミングが最大のチャンスと捉える向きが多く実際、過去の規制緩和のタイミングでは稼働が盛り上がる傾向が見られたことから、今回も同様の流れを見越して、ホール各社は積極的な導入姿勢を見せている。
一方で、この盛り上がりを冷静に分析する声も業界内から上がっている。遊技機市場の動向に詳しい㈱チャンスメイトの荒井孝太代表取締役は「粗利が抜けやすく出玉を見せやすいLT3.0プラス機はお盆営業にも適しており、パチスロ客の流入にも期待できる」としながらも、「いつの時代も、ハイスペック機の設置比率には限界があり、ユーザーの支持も一時的なものと見るホールやメーカー関係者も多い」と述べる。そのため、導入期の熱気が一巡した後は、出玉性能に依存しない「プラス」の部分を活かしたゲーム性重視の開発が進むと見通す。
他方、運用面では依然としてパチンコ市場ならではの課題が残る。パチンコ市場の低迷要因の一つとして、「過度に厳しい運用」が挙げられる点に異論は少ない。特に近年はスマスロの好調を背景に、ホール経営の重心はパチスロへと移り、パチンコはより厳しく運用されがちである。こうした状況下、LT3.0プラス導入を機に、LT2.0以前の既存機種がさらに締められる可能性も懸念されている。
長年に渡り、パチンコ機の適正運用を呼びかける遊技産業未来研究所の中野忠文代表取締役は「既存機種(LT2.0以前)のケアを怠るとホール全体の稼働が落ちる危険性がある」と警鐘を鳴らす。LT3.0プラスの有効活用には、自店における各機種の位置付けを見極め、既存機種とのバランスを取りながら丁寧な営業戦略を組み立てる必要があるとする。
パチンコ市場が真に成長するには
LT3.0プラスの登場を控え、短期的な注目を集めているパチンコ市場だが、この流れがそのまま市場全体の拡大に直結するとは限らない。そう指摘するのが、業界唯一の統計士として知られる㈱THINXの吉元一夢代表取締役である。「パチンコ市場が抱える構造的な課題と、ホールが今取り組むべきオペレーションは、本来切り分けて考えるべき」と述べたうえで、「真の成長には、LT機を含むミドル偏重の現在の構造(※下表参照)から脱却し、投資負担を抑えた遊技環境の整備が不可欠」と語る。
■遊技者構造比率の変遷

円グラフは、2023年と2025年(4月)の、各スペック帯の遊技者比率を表したもの。この2年間だけを見ても、ミドル帯が58.4%→62.7%と上昇する一方、遊べるカテゴリの「甘デジ」「甘海」における比率は、18.8%→13.4%と減少している。THINXの吉元社長はこの変遷を「カジュアル層の静かな消失」と分析。その上で、LT3.0プラスはミドル客のみが支持するとし、新規ユーザー創出や遊技人口の拡大にはつながらないと警鐘を鳴らす。
©2025 THINX Inc.
ここ数年、パチンコ機の射幸性は高まり続けているにもかかわらず、パチンコ市場の縮小傾向には歯止めがかかっていない。一方で、スマスロの登場を契機に盛り返したパチスロ市場には、明確な“土台”が存在する。それが、常時約50%というジャグラーなどAタイプの客数比率である。つまり、パチスロ市場では「遊べる環境」が一定の規模で維持されており、それが市場全体の安定性を支えている。
では、パチンコ市場の再生に向けて欠けている要素とは何か。遊べる機械の充実を次なる解決策とするのか。それとも、射幸性の追求を続けるのか。はたまた、ゲーム性の進化にシフトすべきなのか。おそらく現場や業界関係者の間では、こうした問いがすでに議論されているはずである。
今後の焦点は、LT3.0プラスによる短期的な波が、今後の成長の礎となるかどうかにある。その問いへの答えは、現場の試行錯誤の先に見えてくるはずだ。