不振の終わりが見えないパチンコ市場、好材料一服のパチスロ市場。高射幸性の神通力にもいよいよ限界が。
パチンコ営業を捨てているホールも
下に2011年~2023年までの4円パチンコ、20円パチスロの業績推移(引用:DK-SISデータ)のデータを掲載した。
4円パチンコはこの間、アウトがほぼ半減、反して玉粗利は1.5倍弱の増加(2011年:0.21円→2023年:0.30円)を見せている。
端的に言えば、客離れを粗利率の上昇でカバーしようという意図がハッキリ見て取れるデータだ。
問題は、それでも粗利額ベースで見た場合、カバーしきれていない(2011年:4260円→2023年:3250円)という点。そしてカバーしきれていないが故、玉粗利や時間粗利のさらなる上昇が続いている点だ。
この現象に伴い、パチンコの高射幸性化も止まらない。逆に言えば、射幸性が高まり続けているからこそ、相関性の高い玉粗利や時間粗利の上昇が続いているとも言える。
機種の射幸性を図る指標の1つとなる玉単価の推移を確認すると、2011年以降、MAXタイプの隆盛により、玉単価は2015年まで上昇を続け、以降は規制強化や規則改正により下落したものの、2019年以降は再び上昇に転じて現在に至っている。
2023年の玉単価は1.89円。その数値はMAXタイプ全盛だった2015年よりもなお高い水準だ。そして、2024年も、ラッキートリガー機の登場等により、玉単価の上昇が続いている。
また、悲観的な状況は近年になるほど深刻であり、特にコロナ禍以降、時間粗利が急上昇している点は看過してはならぬ事実だ。2023年の時間粗利は1480円と、同年の20円パチスロの時間粗利710円と比べても2倍超という異常な数値となっている。
一方、4円パチンコに比べると、20円パチスロは10年単位のスパンで見ても堅調に推移している。新規則の施行、それに伴う旧規則機の撤去により、業績が急減した時期があったものの、周知の通り、スマスロ登場等により、2023年は前年までに比べ、稼働や粗利が急回復している。
ただし、パチンコ同様、パチスロ市場も現在、射幸性は上昇フェーズが続いており、高射幸性機種の台頭が、パチスロ市場全体のコイン粗利の上昇に拍車をかけているとの指摘も増えてきた。それが今後のパチスロ業績にどう影響を与えるのか、余談を許さない状況となっている。
遊技機市場の現状についてダイコク電機MIRAIGATE-SIS統括部の服部祐治上席講師は「ユーザーニーズの高さもあり現在、営業の主軸をパチスロに据え、パチンコ営業を捨てているホールも散見される。ただしパチスロも、高射幸性機種の設置シェアが昨年7月の6.5%から今年6月は13.0%に高まっている。また平均アウトは落ちているが、平均粗利が増えている月も確認されるようになり、パチンコに比べて好調であることは間違いないものの、少々、危険な雰囲気も感じ取れる」と分析する。
パチンコ市場の活路はどこに?
低迷を続けるパチンコ市場。高射幸性頼みの営業では、それに伴う高粗利営業という弊害もあって、ユーザー離れの懸念が増すばかりだ。
そもそもパチンコ不振の根本的な原因として、パチンコという遊びが、以前とは変わってしまった点を挙げる関係者が多い。具体的には「出玉率100%問題」だ。現状、打てば打つほど玉が減る遊び(=出玉率100%以下)となっているため、ユーザー視点で極論を言えば、一撃頼みしか勝つイメージを描けない。言い換えれば、必然的に高射幸性機種頼みとなる。
この問題へのアプローチとして、先般の「賞品の提供方法に関するガイドライン」制定は注目に値する。専用賞品の活用により、打てば打つほど玉が増えた(=出玉率100%以上)一昔前の営業方法の再現も可能となるためだ。
しかし、この手法で営業を成立するには幾つか高いハードルが存在する。競合店との集客争いが存在する以上、自ら射幸性を下げる営業に舵を切るのは、客離れという高いリスクが伴う上、もう1つ大きな要因として挙げられるのが、今のパチンコ機が10割分岐営業(もしくはそれに近い)を前提として作られている点だ。
TKCの髙橋正人代表取締役は「例えば10割分岐営業から13.2割分岐営業に変更することで、確かに有効S値(1分間スタート回数)は上がるが、有効S値が上がり過ぎるとパチンコ機の演出バランス等が崩れ、結果的に客飛びを招くことになる」と指摘する。
このテーマについて、メーカー関係者にも意見を求めたところ「本来、設定機能の付いた1台のパチンコ機で色んな営業方法に対応するのが理想だが、現実はそうなっていない。今は、自然の流れとして、パチンコが良かった時代の主流だった12~13.2割分岐営業に戻ることを期待している。そうなれば機械開発にも反映することができる」と話す。
専用賞品の活用が今すぐに拡がることは考えにくいが、それでも、あるホールオーナーは次のように言う。「今のパチンコは、ユーザーは1度の遊技で2回、負けを味わう。大当たりをなかなか引けずに玉が減るという点での負け、そして、消費金額という点での負け。しかし昔のパチンコは大当たりを引き、玉も増えたが、消費金額という1度の負けで済んでいた。昔の方が面白い遊びであり、やはりパチンコはこうあるべきだろう」と。パチンコ市場の不振がここまで続く以上、専用賞品の活用は、引き続き可能性を探るべきテーマではないだろうか。
一方、パチンコ市場の展望を占う上で、ホール営業方法のほか、大きな要素となるのがパチンコ機の仕様だ。
周知の通り、今年7月からラッキートリガーとCタイムにおいて一部、仕様の緩和が認められた。特にスマパチにおいてはゲーム性、射幸性ともその幅が拡がることとなる。
しかしこれ以上、射幸性が高まることの効果について疑問符を投げるのは前出のダイコク電機.服部上席講師。同氏の分析によると、3月から導入の始まったラッキートリガー機の業績は軒並み、他のパチンコ機より良いが、一方でパチンコ全体の業績は3月以降、特に良くなっていない。要するに他のパチンコ機からユーザーが移動しているだけという。さらにラッキートリガー機は射幸性が高いため、パチンコ全体の粗利率の向上に拍車をかけているとも指摘した。
とは言え、これまでの歴史を振り返る限り、より射幸性の高い機種の登場がユーザーに与えるインパクトは大きく、今後も業績向上のカンフル剤的な効果に期待はできるだろう。と同時に、射幸性の追求のみで今の不振打開が難しいことも明白となりつつある。玉粗利(時間粗利)の抑制、ゲーム性の拡大、遊技環境の向上など射幸性以外の部分で、業界全体あるいは個々のホールが次なる一手をどこまで打ち続けられるか、今はそこに活路を見出すしかない状況だ。
偏重は夜稼働に影響 成長に欠かせない選択肢
一方、パチスロにおける懸念点は、高射幸性機種に偏重した機種構成、営業戦略にある。設定関係なく遊技するユーザーが大半を占め、高粗利率でも営業が成り立つことから、『革命機ヴァルヴレイヴ』や『からくりサーカス』の大量設置が相次いだのは記憶に新しい。しかし、現在の状況を見てもらえれば分かるが、長続きはしていない。高射幸性機種の大量設置について、前出の服部上席講師は次のように警鐘を鳴らす。
「高射幸性機種は出玉性能が高い反面、投資金額も嵩む。ユーザーは常に投資に対する回収見込みを計算しながら遊技しているため、回収見込みが立たなくなればすぐに遊技をやめる。こうした機種に偏った機種構成が増えれば、夜の稼働に影響を及ぼしかねない。コイン単価3.5円を超える機種の台数シェアは15%以内がひとつの目安になるだろう」。
こうした事態を避け、パチスロでさらなる成長曲線を描くためにはどうすれば良いか。ひとつは、高射幸性機種と対局に位置する、設定活用をして稼働をつける中射幸性機種の活用だ。代表的なのは『モンキーターンV』『押忍!番長4』『スマスロ北斗の拳』『戦国乙女4』など、コイン単価3.0円前後の機種。ユーザーが積極的に高設定を狙いに行くスペック帯で、増台されやすいのも特長だろう。
機械動向に詳しいコンサルタントは「昨今のトレンドから、高射幸性機種はほっといても稼働はつく。だが、中射幸性機はホールが大事に使う(=設定を入れる)意思を早めに見せておかないと中々定着しない。これまで、全国データや競合店の様子を窺いながら設定活用を模索するホールが大半だと思うが、それに着手する段階を早めることが必要になってくる」と述べる。
さらに、高射幸性機種に偏重させないためのアプローチとして、大きなトピックとなりそうなのは、ノーマルタイプの規制緩和だろう。解釈基準の変更を伴うため、行政の動向次第にはなるが、年内には新仕様での保通協持ち込みが開始されると見通す関係者が多い。
あるホール関係者は「スマスロが大きな市民権を獲得している中で、ノーマルタイプのテコ入れが図られるのは大きい。短時間で遊技できるジャンルはノーマルタイプのみだが、獲得枚数が減ったことで稼働に陰りが出る日もしばしば。新要件ではそこにアクセントを加えることができるため、率直に期待している」と話す。
また、バリエーションを増やすための選択肢として、低貸分野の育成に乗り出すホールも出てきた。
中国地方のホール関係者は「最近では低貸の稼働が良い。特に新台の感度が良く、近隣の併設店で稼働が垂れてきても、自店では満台稼働が続いている。高射幸性機種が多く、通常貸しでは懐事情によって、遊技する土俵に立てないユーザーも多くなってきた。低貸は大きな勝ち負けはないにせよ遊技することができるため、支持率が上がってきた気配だ。以前は粗利重視でブッコ抜きだったが、新台を積極的に導入するなどし、パチスロ全体を盛り上げていきたい」と画策する。
射幸性に頼らずも反転攻勢の余地あり
先述の通り、出玉性能の向上のみで事態の打開が難しい以上、急速なパチンコ市場の業績回復、あるいはパチスロ市場のさらなる業績向上は望み薄である。しかし、中長期視点に立てば、それでも可能性は十分にあると主張するのは遊技機開発会社チャンスメイトの荒井孝太代表取締役だ。
「少し前までは、機種開発にしても、行政から与えられた環境の中で対応するしか術がなかった。機械の音量を例に挙げると、本来の理想と違うことは分かっていても、他メーカーの機種に負けないように少しでも大きな音を出すことが最適解になっていた。しかし今は違う。業界団体が一丸となって折衝することで、機種開発にせよ、ホール営業にせよ、意見を聞いてもらいやすい環境になった。その点において、業界側もようやく反転攻勢の土壌が整ったと言える。5年~10年先の業界を見据えた場合、まだまだやれることがある」。