新型コロナの第三波に関する報道が主役を務めた2020年11月、パチンコ業界では大阪の賞品流通システムに注目が集まった。パチスロ用、低貸し用などの“専用賞品”の提供ができることとなり、いわゆる“二物二価”での営業が可能となったからだ。その後、同地では、どのような展開をみせているのか? 見直しの背景や追随した京都の動向も交えながらレポートする(文=中台正明 フリーライター)。
大阪方式を大幅に見直し
注目は「専用賞品可」
大阪には大阪府遊技業協同組合らの尽力で構築・運用してきた大阪独自の賞品流通システムがあり、それは大阪方式とも呼ばれている。関係者がその概要を大きく見直したのは2020年秋。変更点は、①店舗における特定賞品の提供価格の改定、②賞品卸問屋が組合員店舗に供給する賞品を1種類増やす、③組合員店舗の賞品卸問屋に対する支払契約を定率制から定額制に変更する、④業者側は従来の賞品ラインナップとは別に3㎜賞品の供給を開始する、の4点になる。
①は仕入れ原価の11.2~16.8割(仕入原価が100円ならば4円パチンコは28~42玉、20円パチスロは5.6~8.4枚)の範囲内で交換するとしていた合意事項を市場価格の調査結果に基づき、10.2~16.4割(4円パチンコは25.5~41玉、20円パチスロは5.1~8.2枚)の範囲内で交換することとした。より10割分岐に近い営業が可能になったのだ。
②は従来、たとえば500円相当の賞品は基本的に1店舗1種類だったものが、2種類の用意が可能となり、パチスロなどの専用賞品の提供が実質可能になった。大遊協が二物二価に踏み切ったと言われるのはそのためだ。
また、①と②はいずれも③④とともに12月1日から運用を開始する予定だったが、なし崩し的に11月1日からスタート。①は全国大手の府内系列全店舗が損益分岐割数を10割に近づけた営業に切り替えたとされている。②に関しても、少なくとも10店舗近くが早々に導入に踏み切った。
③は、賞品卸問屋である大遊協商事との契約を定率制から定額制に変更。従来は大遊協商事に1日あたり、賞品購入額100円当たり30銭の手数料に一定の基本マージンを加えた額を支払ってきたが、これだと大手になるほど負担が増すという大手の不満を聞き入れ、手数料を廃止し、どのホールも新たに料金設定した基本マージンのみを支払うこととした。その結果、大方のホールの月額負担料が約70万円となり、年間で億単位の削減になる大手ホール企業もあるという。
④は①②③の後付け施策で、賞品の小型化により配送コストの削減につながるとしているが、12月に入っても供給は始まらず、2021年春頃になるのではないかとする関係者もいる。
くすぶる組合への不満
見直しは大手への懐柔策
これら大阪方式の見直しは、なぜ、この時期に行われたのか? それは組合の求心力を維持するためだ。
改めて、大阪方式の概要を説明しておくと、ホールの特定人気賞品に関する大阪独自の流通システムで、大遊協商事(賞品の元売り)、大和産業(賞品の搬送・保守)、大阪就業支援協会(賞品の買取り)という3社が関連事業を行っている。買取りは以前、大阪母子寡婦福祉事業協会が担当していたが、2019年秋に経営破綻し、同年11月から関係者らが新設した大阪就業支援協会が引き継いだ。
大遊協は、賞品の共同購買事業として大遊協商事(役員には大遊協の執行部も名を連ねている)と契約を締結。大遊協商事は585店(2020年11月9日現在)の大遊協組合員店舗に対して、大和産業を介して賞品を卸している。遡ると大阪方式は、大阪身障者未亡人福祉事業協会が買取所を運営する形で1961年に始まった賞品流通形態で、三店方式の源流の一つとされている。
2000年代初頭に当時の日本遊技産業経営者同友会大阪支部会員らが大阪方式を「制度疲労を起こしている」として批判し、大遊協を離脱(大阪福祉防犯協会を発足)する事態が発生したものの、一貫して大阪方式は大遊協の求心力となってきた。
その仕組みが再び揺らいできたのが近年で、大遊協商事への支払額などをめぐって、大手の組合員を中心に大阪方式に対する不満が高まっていた。そこへ新型コロナによる休業要請問題において、大和産業が従業員の感染防止を理由に賞品の流通を止めたことから、一部ホールの「しばりがきつすぎる」との思いが爆発。約20店舗が大遊協を脱退する事態となった。
その後、当該店舗の一部は脱退を撤回したとも伝えられるが(11月現在、非組合員は約90店舗)、不満が解消されたわけではない。大阪では2020年12月から年明けにかけて、『ミリオンゴッド-神々の凱旋-』の自主的撤去期限が控えている。同機をはじめとする旧規則機の撤去を円滑に進めていくためにも、大遊協は求心力を維持したいところで、その危機感が今回の懐柔策につながったとみられている。
専用賞品導入店舗からは
「パチスロが復活した」
先に触れたような経緯から、今回の大阪方式の見直しはどちらかというと大手の意向を汲んだ内容となっている。賞品価格に関しても、大阪福祉防犯協会系のホールが10.6割営業などをしていることから、提供価格の見直しを求める声が大手から寄せられていた。
その際、損益分岐割数を10割に近づけるほど、パチンコの運用は難しくなることから浮上したのが「賞品を(希望店舗に対しては)1種類増やす」=「パチスロなどの専用賞品を可とする」舵取りだ。
これにより、営業の自由度は格段に高まるため、大手以外のホールからも大遊協の判断を良しとする声が漏れ伝わってくる。実際、専用賞品導入店の名前をみると、中小ホールや店全体の稼働が厳しかったホールが目につく。
そもそも大阪方式の賞品にはIC付とそうでないものの2パターンがあり、IC付は仕入価格が500円のペンダントトップ(3種3色)、1,000円のペンダント(同)、5,000円のペンダント(同)という取り揃えになっている。IC付でない賞品は、仕入れ価格が500円のしおり(3種)、1,000円のブラシ(1種類)、2,000円のアトマイザー(2種5色)及びペンダント(2種4色)というラインナップになっている(別表)。
このうち、1,000円のブラシは2,000円賞品への一本化が進行中だ。基本的に各店舗は、IC付賞品を取り揃えるならば500円のペンダントトップと1,000円のペンダント、5,000円のペンダント、IC付ではない賞品を取り揃えるならば500円のしおりと2,000円のアトマイザー(もしくはペンダント)の組み合わせの中から、それぞれ1種類ずつの賞品を仕入れている。
それを「どの仕入価格の賞品も、ラインナップの中からもう1種類供給できます」としたのが今回の見直しだ。法令では賞品を市場価格と等価で提供することとなっているが、市場価格には幅がある。結果的にホールはパチンコ、パチスロそれぞれにおいて、別々の賞品を異なる金額相当の玉数/メダル枚数で顧客に提供できることになった。
ある中小ホールはこれまで13.2割で営業していたが、パチスロに専用賞品を導入し、11月1日からパチスロのみ11.2割営業に切り替えた。関係者は「パチンコは13.2割の損益分岐割数で問題なかったが、パチスロは厳しかった。でも、11月以降、徐々にパチスロ客が戻ってきている」と笑顔を見せる。
筆者が客として訪れた中小店舗もパチンコ、パチスロともに13・2割で営業してきたとされるホールで、パチスロの賞品の交換枚数を近隣にある系列のパチスロ専門店(11.2割営業といわれている)に合わせたという。店内にはパチスロの営業スタイルを系列のスロ専に合わせたことを示唆するポスターを掲示している。パチンコ島は賑わっていたが、これまでは先の中小ホール同様、パチスロ13.2割営業について顧客の支持が得られなかったということだろう。
パチスロ専用賞品導入店は約10店舗と大阪方式の関係者はいうが、もっとあるはずだとみるホール関係者もいる。このほか、低貸し専用賞品を準備中の店舗もあり、台入替が活発化する年末年始で一気に増える可能性もある。
大手を躊躇させる
二物二価問題への懸念
その一方、“専用賞品”の導入店は一気には増えないとの見方もある。行政当局が今後どのような対応をしてくるか、不安が払しょくしきれないからだ。
ある大手ホールの営業担当者は「大遊協は大阪府警に対して、賞品を増やすとしか説明していないという。それでは恐くて導入できない」と漏らす。
このような組合員の訴えに対して、大遊協の関係者は「気持ちはわからないではないのだが」とした上で、「大阪府警に対して、(卸問屋が)供給する賞品をもう1種類増やすことになったという以上の説明は難しい。どのように運用するかは、各店において、風適法の規定を念頭に入れながら考えてほしい」と理解を求める。
パチスロ専用賞品、いわゆる二物二価に対する警察の主な指導を振り返ると、石川県警が2008年に、「二物二価とは、特定の遊技球等に対する賞品を(パチンコとパチスロなどでそれぞれ)設けて、客の賞品選択の自由を排除するものであり、(一物二価、二物二価)いずれも換金行為を前提とした賞品提供方法である」と指導した。2011年にも三重県警が二物二価は賞品の取り揃え義務の趣旨に反するだけでなく、著しく射幸心をそそるおそれのある行為を禁止する条例に抵触するおそれがあるとした。
2012年には警察庁保安課の玉川達也課長補佐(当時)が余暇環境整備推進協議会の総会で、「二物二価や三物三価、四物四価といったものも、風営法施行規則がいわゆる賞品の取り揃え義務を定めた趣旨に反する」と指摘。
「二物二価や三物三価、四物四価といった運用については、その実態として、賞品提供時におけるいわゆる交換率を巧妙に隠す手段として行われている場合が多いのではないかと考えられており、この点でも問題があると考える」との見解を示した。
これら過去の行政指導を気にするホールに対して、「二物二価や三物三価などの業界用語で議論するからややこしくなる」と言うのは某県遊協の理事長。「風適法の等価の原則と、ソフトロー化している業界の自主規制(5品目500種類以上を取り揃える)さえ守っていれば、501種類目として専用賞品があっても、何ら問題はないはず。理屈上は特定機種の専用賞品も可能だと思う。要は、ことさらに専用賞品をアピールしないよう、運用に注意したらいいだけの話」との私見を述べる。
現に西日本には、玉川講話後もホールがパチスロなどの専用賞品を取り扱ってきた県が存在する。
ただ、デリケートな問題なので、PRは難しい。大阪でも「パチスロの営業スタイル一新」といったキャッチで、1000円46枚貸しにしたことなどを告知する程度の店舗が大半だ。中にはツイッターで「本日、店内で重要なお知らせをします」と案内するにとどめたホールもあった。
全国大手は損益分岐変更
低貸し店以外は10.2割に
賞品価格の見直しも、立ち上がりは多数のホールが様子見を決め込んでいる。専用賞品が導入しづらい状況では、新提供価格による10割分岐に近い営業も、期待するほどの集客効果が得られないとの判断が働いているのかもしれない。
そんななか、大阪府内の系列店が11月7日付で一斉に提供価格を変更したとされるのは某全国大手。それに伴い低貸し店以外は、10.2割分岐に切り替えたといわれている。一部系列店では、賞品ラインナップの写真とそれぞれの交換に必要な玉数/メダル枚数を賞品カウンター前に大きく掲示し、従来は4円パチンコで280玉相当だった賞品が255玉に変わったことなどが常連客にはひと目でわかる演出を施していた。
この全国大手の決断を、「11月は追い風が吹いたようにみえるが、このままだとパチンコがきつくなるのではないか」と受け止めるのは関西の大手ホールの関係者。「10割分岐に近い営業はパチンコの運用が難しいので、店舗単位で判断すべきというのが当社の考え。当社では、10.2割分岐への切替えはある程度以上の規模の店舗にとどめ、半数以上の店舗は従来の11.2割分岐を維持している」と話す。
激戦区・難波でも、当該全国大手以外の有力店はほぼすべてが賞品の提供価格を据え置いたまま11月を送った模様だ。ただ、20円パチスロは有力店の全店が1,000円46枚貸しで足並みを揃えた。大阪で10.2割分岐がどれだけ広がるかを占う意味でも、今後の動向が注目されるエリアだろう。
京都も大阪に追随
焦点は警察庁の反応
今後の焦点の1つは他府県への影響で、早々に大阪に追随する方針を決定したのは京都府遊技業協同組合だ。
京都では多くのホールが11.2割分岐であることから、大阪に顧客が流れてしまうのではないかとの意見が浮上。11月中旬に臨時理事会を開催し、賞品は仕入れ原価の11.2~16.8割の範囲内で交換するとしていた合意事項を「業界等価では提供しない」に切り替えた(業界等価とは仕入原価+仕入経費を下回る価格で賞品を提供すること)。専用賞品も、卸問屋が対応できるならば良しとした。適用は12月1日から。ただし、いずれも文書は発出していない。
京都では京都府遊協と京都府遊技場景品納入業者協力会(遊景会)が都福祉安全事業協会を設立し、社会貢献活動をしているが、賞品の共同購買事業は行われていない。そのため、京都府遊協は遊景会に大阪と同様の対応を打診し、「できないことはないとの返事だったので、自店の卸問屋に聞いてみてくださいと伝達した」(関係者)という。大阪同様、専用賞品を可とする具体的な表現はしていない。
京都の某ホール経営者は「11.2割分岐でバランスがいいので、現状を維持。専用賞品は大阪以上に曖昧な決定なので、恐くて導入できない」と即答。関西における現在の流れを、新たな行政指導や世間による批判の火種になりかねないと危惧する。
波紋を広げる大阪の賞品問題。ホール営業の選択肢を増やす契機となるのか、厳しい指導の揺り戻しが待ち受けるのか。警察庁の反応を注視したい。
中台正明(なかだい まさあき)
1959年、茨城県生まれ。フリーライター。大学卒業後、PR誌制作の編集プロダクションなどを経て、1996年3月、某パチンコ業界誌制作会社に入社。2019年2月に退職し、フリーとなる。趣味は将棋。