コロナ禍で、これまで新規出店に意欲的であった法人も、既存店の立て直しを優先せざるを得ない状況だ。今後、パチンコホール企業はどのような新規出店戦略を採用し、店舗展開を図っていくのか、そのトレンドを考察する。
減り続ける新規出店
直近のパチンコ出店動向について、㈱矢野経済研究所・主任研究員の高橋羊マネージャーは「2019年度(※2019年4月~2020年3月)の新規出店数は弊社調べで120店舗。パチンコMAXタイプ撤去時期となった2016年以降、出店数は減少を続けている」と話す。
同時に2016年以降は、純粋な新規出店ではなく、「M&A」を含む居抜き物件を買い取る形が主流だ。新規出店に占める居抜き物件の割合は、2007年度が全体の39%だったが、2020年度は90%にまで高まっていると同氏は言う。「M&A」には高射幸性パチスロ機を撤去期限まで使用できるというメリットがあり、このことも最近の居抜き物件ニーズの上昇を後押ししていた。
その上で高橋氏は、今年の展望について「コロナ以前から準備を進めてきた物件が休業要請によってGW前にオープンできなかったため、それらがお盆に向けてオープンしてくる可能性がある。とはいえ、今から新規出店を計画するケースはほぼないであろう。遊技機の動向、ホール経営環境から鑑みて、資金的リスクが大きいことが要因」と見通す。今は「既存店の立て直し」で精一杯のホール企業が大多数を占める。
昨今のホールの出店意欲について、㈱遊技産業未来研究所の島田雄一郎取締役副社長は「出店意欲の減退は資金問題が一番大きい。コロナによる休業ダメージの深さもあるが、金融機関がパチンコ店を観る姿勢も変わってきている」と語る。続けて「年度で見ると、パチンコ店の出店が最も盛んな時期はGW前であり本来、このタイミングでオープンする予定だった店舗を除き、2020年下半期は、ほぼ出店はないだろう」と予測した。
今後はコロナウイルス「第2波」による目に見えない予測不能なリスクも考慮しなくてはならない。島田氏は「余程、立地や規模、価格などの好条件が揃っている場合を除き、もしかすると、コロナウイルスが完全に沈静化するまで、出店の動きはないかも知れない」と悲観的に見通す。
まとめると、2020年度は、コロナ発生による休業で資金が枯渇し、出店戦略だけでなく経営戦略そのものの見直しが必要不可欠となっている。上述の通り、「新規出店」より「既存店舗の立て直し」の方が緊急度が高く、併せて資金調達の問題もあり今後、ホールの出店スピードは従来のような勢いにはならない、と予想される。
賃貸物件が8割
ホール企業間の店舗売買はどのように推移しているのだろうか。パチンコ店舗向け不動産情報サイト「パチンコ物件ドットコム」を運営するシーズン㈱の小林哲也代表取締役に話を伺った。
小林氏は昨今のホール物件動向について「今年に入り、ホールの出店マインドの低下は顕著で、コロナ発生後も動きは鈍い」と話す。4月、5月における休業の影響から既存店の立て直しが最優先という課題認識について、先述の関係者と全くの同意見であった。
出店マインドの低下を示す事例として小林氏は、コロナ前に物件の売買契約がまとまっていたとしても、コロナ禍を受け、契約がキャンセルとなったケースを挙げる。それだけ、今回のコロナによる状況変化と経営圧迫、先行き不透明感は想像以上に大きく、特にキャッシュアウトの大きさは近未来の経営を不安にさせる根本的な原因となっている事は言うまでもない。
「某ホールオーナーの話では、今回のコロナによる休業の結果、コロナ前の年間売上の約1%~2%の資金(キャッシュ)がなくなったとのことだった。そのダメージは極めて大きい」(同氏)。
また同氏が運営する「パチンコ物件ドットコム」に掲載されている売り物件ついて「7~8割が賃貸物件だ。賃貸の場合、休業によるキャッシュアウトは、家賃を含めた固定費負担が大変重い。今後も売り物件に占める賃貸物件の割合が高い状況が続くと思う」と説明。経営環境がより厳しい賃貸物件が今後も売り物件として多く出てくるだろうと分析する。
一般的に売り手側の売却資産は、遊技機を含めた中古の設備機器、人材等に加え、営業権(その場所で営業を行う事業許可)となるが現在、売り手と買い手の間で売却金額についてなかなか折り合いが付かない状況だ。コロナによる先行き不透明感から買い手側のホール企業も慎重にならざるを得ず、物件の需給バランスが大きく崩れている。
トレンドは800台規模?
では、厳しい経営環境のなか、今後の出店を成功させるためのポイントはどこなのか。前出の㈱矢野経済研究所の高橋氏は「パチンコ事業のレギュレーション(規制)が営業戦術面(機械の導入、利益調整、広告宣伝など)での差異化をより困難にしており、今後もスケールメリットを追求する店舗が成功すると考える。このことは事実としてデータに表れている」と述べる。これまでも大型店有利の状況が続いていたが、今回のコロナ問題が、その傾向にますます拍車をかけるだろうとの主張だ。
周知の通り、今後は密にならない遊技環境の整備が必須だ。コロナ前の感覚だと1,000台規模で営業できる広さの物件でも現在、遊技機を詰め込んで密になるような空間作りは、恐らく支持されなくなるだろう。
そのため「これまで大型店と言えば1,000台以上というイメージだったが、今後は800台以上というイメージに変わるかもしれない」と同氏は予測する。
またコロナ対策として広い空間の確保が必要となることを考えた場合「小型店と大型店では、大型店のほうが対応しやすい。小型店は、物理的なスペースがないうえ、売上等に与えるマイナス影響が大きく対応しづらい」(同氏)と指摘。
同社が調べ続ける統計データ上でも、新規出店の成功率は、大型店のほうが圧倒的に高く、今後は例え、中小規模の居抜き物件を買うケースでも、その店舗だけではなく、隣の用地も合わせて購入するなどして、より大型化した上での新規出店を行うケースが増えるのではと予測した。
一方、店舗の大型化については、これまでと異なるトレンドに変わりつつあるとの見方を示すのは㈱遊技産業未来研究所の島田氏。「郊外型で巨大旗艦店等は、例え家賃が安くても今後は厳しくなっていくだろう。何故なら、そもそも遊技機が手当てできない。現状から考えて700~800台程度の店舗が適正となるのではなかろうか?遊技する上で安心・安全は大前提ながらも、“ユーザーは勝ちたい”という欲求が非常に強いはず」と話す。
上述の通り、同氏は700~800台程度を適正台数とした上で、出玉感や空間演出等、店舗全体の「ソフト力強化」が競合店との差異化ポイントになるとした。
またシーズン㈱の小林氏は「今後のパチンコ店の出店はダウンサイズ化がトレンドになるのでは?1,000台、2,000台と言った店舗ではなく、700~800台ほどの店舗が、都心や地方といった地域に捉われること無く、居抜き物件を中心に良い条件の物件から成約していく」という意見だ。
各氏、やや見方が異なる部分があるものの、「店舗規模の適正は、800台程度がひとつの目安」という点では一致している。
警察庁発表によると、昨年末時点での全国ホールの平均設置台数は、435.3台。この数値を基準に考えると、今後も大型店化が進むと考えて間違いなさそうだ。ただし、これまでと異なるのは、少しでも規模が大きいことが必ずしも正解ではないということ。1,000台の店舗に勝つために1,500台、1,500台の店舗に勝つために2,000台という時代ではなくなりつつあるのかもしれない。
また、ホール企業が新規出店の可否を決める判断材料として、遊技機の動向が与える影響も依然として大きい。例えば来年2021年1月末に閉店を考えていた店舗も、認定・検定期間の延長により、それ以降もとりあえず営業を継続する店舗があるという。本来、閉店ラッシュの時期と見られていた2021年1月末が、新規出店を拡大する側のホール企業にとってはひとつの『買い時』でもあった。
しかし2021年1月の旧規則機完全撤去という前提が崩れた以上、各ホール企業は、それぞれの立場で『売り時』『買い時』を再考する必要が生じた。それぞれ方針が固まるには、なお時間を要するだろう。
コロナ禍で延命?
やや異なる角度で、昨今のパチンコ出店事情について話すのが㈱船井総合研究所 金融・M&A支援部の平野孝シニアコンサルタントだ。
同氏はまず、パチンコ店のM&Aの歴史について「2015年頃までは、企業買収による出店は一般化せず、それ以降に増加した」と振り返る。特に規則改正以降は、人気の高射幸パチスロ機をどれだけ保有しているか?が、M&Aの条件を決める上での大きな材料の一つになっていたという。
ホール企業の出店戦略の今後については「店舗ごと買収するM&A型」の出店がより一般化し、「更地に一から店舗を作る新規出店」よりも主流になるだろうという予想だ。
ただし同氏は「大手ホールの出店スピードはペースダウンしており、買収側のホールも絞られてくるだろう」と語る。その背景には前出の関係者同様、ホールは資金的に余力もなく、まずは既存店の立て直しが最優先という課題があるため、今後の出店動向が鈍化するのはある意味、必然と言える。
続けて同氏は「皮肉にも、“死に体”だったホール企業の一部は、コロナにより閉店・休業することなく延命することが出来ている。これは、コロナで業績が悪化した企業への金融支援や借入金の返済猶予、各種給付金等による国の支援によるところが大きい。こういったホール企業は、この間、単に一息つくのではなく、ホール企業の現状・経営資源を整理整頓した上で、会社の方向性を再確認して欲しい」と言う。
買収側の企業の出店マインドが落ち、既存店立て直しが最優先課題と進んでいるが今後、ますます売却側も「簡単に店舗を売却する事が出来ない」状況になるということは容易に判断できる。特に賃貸で運営しているホールは「営業権」が資産価値となるだけに、より営業成績を上げる戦略と実績が必要となるだろう。
最後に平野氏は「このコロナ禍の後の社会は“7割経済”が到来すると言われている。それを考えるとホール店舗数も市場規模もさらに減少するだろう。借入金の返済猶予など、リスケにより救われたホール企業が、従来通りの返済スケジュールになるのは恐らく2022年以降。そこから返済スピードが上がり、さらに厳しい局面が到来すると考えられる」と語った。
国の支援などでかろうじて延命が図られたホール企業と言えども、先行きは前途多難な状況に変わりはないということだ。
変わらざるを得ない新規出店戦略
昨年度まで新規出店ペースは緩やかに逓減していたものの、それでもコロナ前は年間100店舗以上のパチンコ店が誕生し、市場を活性化させていた。しかし今春、「緊急事態宣言」および休業要請等で社会全体が一変し、接触を回避する為に経済活動はほぼ停止状態となった。その結果、ホール企業は内部留保を放出し、急激に資金が枯渇、弱体化していった。
よってコロナ後「戦略の変更・見直し」をせざるを得ず、今後数年、ホールの新規出店数は大きく減少し、早期資金確保の為にまずは「既存店立て直し」に舵を大きく切ると思われる。
もちろん資金力のあるホールがいち早く既存店の立て直しを実現する事は容易に想像出来るが、問題は全く資金的余裕のないホール企業だ。突然とも言える状況の変化にどこまで耐える事が出来るのか?どう対応していくのか?例えば、早期資金回収の為に無理な営業を強いることでユーザーが離反し、収益性をさらに落とすことは、できることなら避けるべき未来だと言える。
今後「withコロナ/afterコロナ」の時代に突入し、社会全体の行動パターン・生活様式も大きく変わる。
ホールの新規出店戦略が大きな転換期を迎える事は確実だ。もう従来の出店条件では成功するとは限らず、そもそも「規模」「立地条件」「競合状況」といった基準のみで出店を判断する事はできなくなる。
常にユーザーがどんな嗜好性・消費行動を取り、どんな地域特性・生活パターンがあるのかなど、緻密なマーケティングが出店計画と組み合わされなければ、店舗の成功は難しいと考える。
もちろん、既存パチンコ店も社会の変化に適応できなければ、さらに淘汰されるのは間違いない。