こんにちは、弁護士の川﨑公司です。今回は若いホールスタッフの方から「パチンコ台・パチスロ台の動画コンテンツ」に関するご質問を頂戴しました。
僕はこどもの頃からアニメが大好きで、中学時代から全国各地の聖地巡りなんかしてました。僕がパチンコ・パチスロにハマったキッカケは、好きなアニメを扱った台が出たからなんです。で、好きが高じてパチンコ屋に就職したんですが(笑)。
それで、色んな台に興味を持 って、昔の機械台から調べたんです。そしたら、映画やドラマ、懐かしのアニメとか、色んな動画コンテンツが搭載されてる台って、たくさんあるんですね!
パチンコしながら好きなアニメが楽しめるって僕にとって至福の時間なんですが、こういった動画を使 ってパチンコ・パチスロ台を作る時、アニメなんかの制作会社と機械台メーカーの取り決めってどうなってるんですか?ふと気になったので質問してみました!(ホールスタ ッフTさん23歳)
1.動画コンテンツには著作権
パチンコ台・パチスロ台のモニターを彩る様々な動画コンテンツ、これらはメーカーが勝手に搭載しているわけではありません。これらの動画には著作権を有する著作者がいて、ふつうは勝手に使うことができないからです。
著作権は、人が創作的に表現した著作物に生じる法律上の権利で、その内容は著作権法に定められています。
著作権法では、さまざまな表現が社会で活発になされて文化が発展するように、表現をした著作者にいろいろな権利を与えて保護しています。著作権とは、そのいろいろな権利をまとめた呼び方だといえます。今回は、その著作権の中身がどういうものか、動画コンテンツにかかわるものを中心に紹介してみようと思います。
自社のホームページや個人のブログなどに動画を公開している読者の方にも、参考にしていただければと思います。
2.著作物ってどんなもの?
著作物がどんなものか、著作物を創作した著作権者にはどんな権利が認められるかは、著作権法に定められています。その著作権法によると、著作物とは、
「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」
と、定められています。
なんだかかしこまった書き方ですね。しかし、特別ハイレベルなものでないと著作物と認めてもらえないわけではありません。人の精神活動の表れであれば、子供の書いた家族の絵や、日々の出来事から思ったことなんかを書いたブログの記事なども、著作物として著作権の対象になったりします。
これでもちょっとわかりづらいと思いますので、著作権法は著作物の9種類の例も挙げています。あくまで例なので、これに限られるわけではありませんが、
①小説、脚本、論文、講演そ の他の言語
②音楽
③舞踊又は無言劇
④絵画、版画、彫刻その他の 美術
⑤建築
⑥地図又は学術的な性質を有 する図面、図表、模型その 他の図形
⑦映画
⑧写真
⑨プログラム
以上が代表的な著作物ということになります。
②音楽や、④絵画(漫画も含まれます)などは、普段の暮らしでも気が付きやすいですね。変わったところでは⑨プログラムですが、これは、IT社会が始まろうという時期に、プログラムをどの法律で保護しようか国で議論して、後から著作権法の守備範囲に加えたという事情があります。
社会の動きに合わせて法律もどんどん移り変わっていくのですね。
3.動画コンテンツは「映画の著作物」
さて、今回のテーマ、パチンコ台・パチスロ台の動画コンテンツは④映画の著作物、に当てはまります。映画をそのまま持ってきたものも多いですから、なんとなく納得ですね。
著作権法上は、「視覚的または視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている」ことが、映画の著作物としての保護を受ける条件になっています。映像か、映像と音・音楽の合わさったもので、フィルム、テープ、ディスクやサーバに記録されているものということですね。恋愛ゲームも映画だ、と裁判所が判断した例もあったりします。
では、映画の著作物の著作権は誰が持っているのでしょう。
①小説、④絵画なら書(描)いた人、⑧写真なら撮った人と分かりやすいのですが、映画の著作物には制作、監督、演出、撮影、背景・道具などの美術など大勢の人がかかわっています。著作権法では、この中からその映画の「全体的形成に」かかわった人が著作権者と定めています。ふつうは監督さんがこれに当たることになるでしょう。
さらに、その監督さんが会社や組織に所属して、そこでの仕事として映画を撮ると、その会社や組織が著作権者ということになります。世の中で見る映画の「制作・著作」が映画会社や「○○制作委員会」のような組織になっているのは、そうした法律の規定があるからなんですね。
4.権利者だけができること
こうして映画の著作権がどこにあるかがわかりました。著作権の権利者、著作権者は、著作物について次のようなことができると決められています。
❶コピーすること
著作権のマークⒸは、「CopyRight」(コピーライト)つまりコピーする権利の印なんですね。コピー、複製することは著作権者の一番基本的な権利です。
❷上映すること
映画を映すことです。パチンコ台・パチスロ台で映すことも、本来だったら著作権者しかできないわけです。
❸編集すること
名場面だけ切り取って並べなおしたり、リーチの文字や効果を加えたり、編集することも著作権者の権利です。
逆をかえすと、著作権者以外の人は、著作権者から同意をもらわないとこうしたことはできないことになるわけです。この同意のことを、使用許諾とか、ライセンスとか言ったりします。話題の小説を映画化するなんて場面で聞いたことがあるのではないでしょうか。
つまり、パチンコ台・パチスロ台のメーカーは、パチンコ・パチスロに合わせた上映ができるように、動画コンテンツの著作権者にライセンスを受けて搭載しているのです。
なかには、メーカーが独自のコンテンツを作っている例もありますね。そうすれば自分が著作権者ですから、ライセンスを取るため交渉する手間がかからないことになります。
いかがでしょうか。
パチンコ台・パチスロ台にかかわる著作権者の権利を紹介しましたが、著作権の内容は実はもっといろいろあって複雑です。たとえば、インターネット配信も著作権の一部です。
街でお気に入りの作品を見つけたら、「あれ、これはどういう権利のライセンスを受けてここにあるんだろう」なんて考えてみるのもいいかもしれませんね。
◆著者プロフィール
川﨑 公司(かわさき こうじ)
弁護士。東京弁護士会所属。東京大学卒業後、野村證券、東京金融取引所、みすほ証券出向を経て現職。金融機関での実務経験を活かし、金融法務、節税対策、事業承継等を得意とし、風営法にも強い。また弱者保護は弁護士の特権という信念から民事・刑事問わず多くの相談を受けている。証券アナリスト試験、行政書士試験合格。