Q1:「最近どう?」と声をかけたら「大丈夫です」と返された。それ以上踏み込めない…。
多くの店長が同じ悩みを抱えています。「踏み込んだらハラスメントにならないか」「本人が大丈夫と言っているのだから、それ以上は余計なお世話では」…そう考えて、それ以上何も言えない…。
しかし、メンタル不調のある人ほど「迷惑をかけたくない」「自分が弱いだけだ」と考え、周囲に助けを求められないのが実情です。だからこそ、厚生労働省の指針では、上司や店長など現場の管理監督者が部下の変化にいち早く気づき、対応すること(専門的には 「ラインケア」 と呼びます)を、対策の2本柱のひとつに位置づけています。
「大丈夫です」を額面通り受け取るか、「本当にそうかな?」と立ち止まれるか。ここが、休職や離職にまで進んでしまうかの分かれ目です。
うつ病と不眠には深い関係があり、 「眠れない」が2週間以上続いたら要注意──という話を前回お伝えしました。今回はその先、声をかけた後に、部下がどうすれば話してくれるのか。「聞き方」の技術 をお伝えします。
Q2:「病気かどうか」と言われても、素人には判断が難しいのですが…
安心してください。店長に必要なことは「診断」ではありません。産業保健の基本原則として、現場の管理監督者は 「この人は病気かどうか」ではなく、「業務のなかで実際に起きている変化」に目を向けよとされています。
遅刻が増えた。接客ミスが目立つようになった。表情が乏しくなった。口数が急に減った、あるいは急に増えた。
「以前のその人と比べて何かが違う」──この“違和感”を感じ取ることが、毎日そばで働いている店長にしかできない最大の強みなのです。
Q3:違和感に気づいた。でも、本人にどう言えば…?
ここからが今回の本題です。3つのポイントがあります。
① 聞くのは「何があったか」ではなく「最近の体調」。
「何かあった?」と聞くと身構えてしまい、本音は出てきません。切り口は「体調」にしてください。「最近よく眠れてる?」は、ここでも有効な入り口です。
② 「いつ頃から?」を1つだけ聞く。
「眠れていない」「食欲がない」「疲れが取れない」──何であれ、答えが返ってきたら、次に聞くべきは 「それはいつ頃から?」 の1つだけ。原因を探る必要はありません。期間の情報が、後で産業医や専門家が判断するための最も重要な手がかりになります。
③ 「受け止める」だけでいい。解決しようとしない。
店長が陥りやすいのは「自分で何とかしなければ」と思うこと。厚労省の指針でも、管理監督者の役割は 「中立の立場で受容的、共感的に話を聞くこと」 とされています。「そうか、大変だったな」これだけで十分です。アドバイスや叱咤激励は不要です。

Q4:聞いた後は、どうすればいい?
「気づく → 声をかける → つなぐ」が店長の3ステップ です。声をかけて話を聞いたら、次は専門家につなぐ番。ただし、つなぎ方にもコツがあります。
「産業医に行きなさい」ではなく、「産業医には守秘義務があるから、会社には伝わらない。一度話を聞いてもらおう」 と添える。この一言で、相談へのハードルは大きく下がります。
そしてもう一つ、うつ病と不眠の関係を前回お伝えしましたが、今回強調したいのは、不眠だけでなく、行動の変化全般に目を向けてほしい ということ。遅刻、ミス、表情、口数、身だしなみ。これらの変化に気づけるのは、日々そばで働いている店長だけです。
今日の「処方箋」
「いつもと違う」に気づいたら、すぐに声をかける。聞くのは「体調」と「いつから?」の2つだけ。解決しようとせず、受け止めて、つなぐ。
◆プロフィール
亀山 嘉志人(Yoshito Kameyama)
株式会社torchi 代表取締役社長
医師・産業医・労働衛生コンサルタント。「スタッフの突然の休職」「採用してもすぐ辞めてしまう」といった業界特有の「人の問題」を、産業医の視点から解決する専門家。経営者の悩みに寄り添い、従業員の健康管理を通じて「人が辞めない、強い組織」作りをサポートする。企業研修や顧問契約に関するご相談は下記まで。
【連絡先】info@torchi.net



