2026年3月、『L甲鉄城のカバネリ 海門決戦』の登場が予定されています。本機の導入や運用を検討される際、前作の実績が大きかっただけに、中身の精査よりも「主力としてどう扱うか」という運用ありきで検討が進みがちかもしれません。
しかし、ここで重要になるのは、過去の実績という結果だけでなく、なぜ支持されたのかというプロセスに目を向けることだと考えています。そして、初代の成功要因であった要素が、現市場においても差別化の武器として機能するのかという視点を持つことです。本稿では、初代のヒット要因を整理しつつ、後継機が直面する市場環境との違いについて考察します。(文=ジェイさん@発信する遊技機クリエーター/J-BEAT合同会社代表)
■成長軌道に見る、ヒットの本質
まず前提として整理したいのは、累計導入5万台や稼働貢献80週といった数字が、あくまで最終的な到達点に過ぎないということです。2022年7月の導入当初、納品台数は約1万台からのスタートであり、決して最初から約束されたヒット作ではありませんでした。
むしろ、市場の評価が定まらない中での供給不足が、ユーザーの打ちたいという欲求を刺激し、その後の増産を含めた大ヒットへの道筋を作ったと言えます。最終結果の数字の大きさだけに目を奪われず、なぜそこまで成長できたのかという背景を冷静に見る必要があります。
■ヒットを支えた3つの設計思想
初代カバネリが評価された要因は、大きく以下の3点に集約されると考えます。
①ツラヌキSPECによる価値の転換
6.5号機への移行期、差枚数2,400枚という新ルールを単なる仕様変更として説明するのではなく、「ツラヌキSPEC」という言葉で表現した点は秀逸でした。これにより、ユーザーは2,400枚で終わってしまうという従来のネガティブな印象を捨て、終わらない期待感へと認識を一変させました。6.5号機仕様を、ユーザーが直感的に理解できるワードで言語化した功績は大きいと言えます。
②遊技を継続させる多重導線の設計
3つのポイントシステム、ゲーム数振り分け、100G刻みの高確、各種示唆演出、裏美馬STの契機となる黒煙りなどが巧みに噛み合うことで、常に手の届く位置に次の目標が見える状態を作り、「次のゾーンまで勝負してみたい」というポジティブな動機を提供し続けました。この設計が平日の稼働を下支えし、ホールにとっても運用しやすい土壌を作りました。
③チャンス目の可視化による間口の拡大
本来、ライト層には伝わりにくいチャンス目を、色で差別化されたキャラ図柄によって、目押し不要で止まれば熱い、複合すればもっと熱いという単純明快なゲーム性に落とし込みました。出目の熱さをヘビーユーザーだけの特権にせず、誰にでも分かる熱さとして提供した点は、本機の稼働層を広げた大きな要因と言えるでしょう。
■競合ひしめく市場での優位性は保てるか
これら3つの成功要因は、現在の市場環境においても他機種を圧倒する差別化要素になり得るのでしょうか。多くのスマスロAT機が稼働する現状において、それだけで優位性を築くことは容易ではないと考えています。
今や、出玉性能の底上げ機能を持たないスマスロの方が珍しく、「ツラヌキ要素」の有無だけで機種の良し悪しが語られるフェーズは過ぎ去りました。後継機がスペックの優秀さを謳ったとしても、それは競合機種と同じ土俵に立ったに過ぎません。また、通常時やAT中のゲーム性についても、今の市場には練り込まれたシステムを持つ競合機が多数存在します。初代が切り拓いた分かりやすさや奥深さは、すでに多くのライバル機種によって研究され、昇華されています。
つまり、後継機の導入を検討する際は、初代の要素があるから大丈夫という判断ではなく、競合機種が並ぶ島の中で、本機をあえて選ぶ理由が明確に設計されているか、という厳しい目線が必要になると考えます。
■おわりに
『L甲鉄城のカバネリ 海門決戦』は間違いなく注目機種ですが、カバネリだから安心という過去の成功体験への依存はリスクになり得ます。
まず、初代の要素はすでに市場のスタンダードであると認識すること。その上で、上書きされた当たり前を超える、本機独自の価値がどこにあるのかを見極めること。そして、供給が潤沢な環境下で、どのように自店の島にお客様を定着させるかという計画を練ることです。
過去の成功体験にとらわれず、現在の市場環境と本機の実像を冷静に照らし合わせる姿勢こそが、本機の運用を成功させる鍵となるのではないでしょうか。
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◆プロフィール
・ジェイさん@発信する遊技機クリエーター
J-BEAT合同会社代表
発信するプロ遊技機クリエーター兼ライター。過去遊技機メーカー3社で勤務。在籍中に10数機種の遊技機開発に携わる。現在は法人を経営しつつ、フリーのクリエーターとして遊技機開発に従事。また、メーカー所属では出来ない発信、評論活動を行っている。
X(旧Twitter):https://twitter.com/jsan65536



