前回の記事には想像以上の反響をいただき、AIはパチンコホール現場の課題や可能性と深く結びついていると、改めて実感しています。今回のテーマは「顔認証と接客ノウハウ」。この分野で進めているサービス開発の裏側を少し紹介したいと思います。
今回のテーマには大きく2つのゴールがあります。1つは「AIを活用してお客様のリピート率を高めること」。競合から顧客を奪うのではなく、来店されたお客様に「また来よう」と感じてもらうことを目指しています。ある意味で優しい発想です。そこにAIをどう活かせるかを探っています。
もう1つは「接客の力を信じること」。逆説的ですが、省人化が進む時代だからこそ、人が介在する接客の価値は一層高まります。省人化で生まれた余力を、AIの学習データ作りなどに活かせる仕組みを構築したいと考えています。
次に挙げるのは、パチンコホール経験者なら強く共感できるであろう典型的なシチュエーションです。
・1年ぶりに来店されたお客様と、3日連続で来てくださっているお客様。掛ける言葉は当然違う。
・マナーの悪いお客様がいても、「他の お客様からクレームが出ています」と直接的に伝えてはならない。特定されない表現が必要である。
・遊技客同士のトラブルを避けるには、通報者と迷惑客を上手に離して対応する必要がある。
・大柄な男性のお客様には、最初から男性スタッフが対応したほうがスムーズに進む。
こうした現場の「あるある」は、経験者であれば誰もが頷けるはずです。いま取り組んでいるのは、こうしたホール特有のシーンを100、200と洗い出し、AIに学習させること。そして接客に長けたスタッフのノウハウも同時に取り込んでいます。
「自分ならこうする」「こう対応したらこうなった」――昭和から平成、令和へと受け継がれてきた接客スキルをAIに学ばせ、いわばスーパースター的スタッフの知恵を体系化しているのです。
従来、ホール接客は「先輩の背中を見て学ぶ」か「マニュアルで学ぶ」が基本でした。しかし新人が一から習得するには時間がかかり、属人性も強いという課題がありました。先輩がマンツーマンで教えたり、ロールプレイングで鍛えたりするしかなかった分野をAIが補助するわけです。属人性の解消と学習時間の短縮は、まさにAIの得意領域です。
私たちの狙いは、ホールで起こる接客シーンをAIに拾わせ、最適な応対につなげることです。顔認証で来店履歴を把握し、過去の接客をデータベース化。その上でスタッフに「この方にはこう声を掛けよう」とサジェストします。良い接客事例はすべて蓄積し、組織全体で共有する仕組みとなります。
「顔認証×接客ノウハウ」。この挑戦はまだ始まったばかりですが、いずれ業界のスタンダードになると信じています。数字や機械分析だけでなく、人と人との接点に光を当てる。そんなAI活用をこれからも追求していきます。
◆プロフィール
髙橋和輝
株式会社ピーメディアジャパン代表取締役。大前研一ビジネススクール出身。18歳から現場一筋で、ホール企業勤務を経て、コンサルタントとして独立。業界初のホール企業向けサブスクサービスを12年運営。現在はパチンコ特化型BtoBプラットフォームを展開(2024年取引額約6.5億円)し、ホール営業×AIを開発中。