「射幸性が高すぎる」。近年のパチンコ機、特にLT機を中心に、そうした批判が繰り返されている。出玉性能のインパクトが拡大し、「1回の遊技で数十万円勝てる」といった事例が増えている以上、この印象は一見、自然なもののように思える。
しかし、本当に射幸性は上がったのか。この問いに対し、我々がまず注視すべきは、射幸性の定義が「数値の大きさ」で単純化されているという構造的問題である。ここでの“数値”とは、勝ち金額や出玉量(MY等)といった、わかりやすい外形的指標である。
確かに、最近の機種はこうした指標において高水準を示している。だが、この“強さ”が必ずしもユーザーの支持を伴っているわけではない。この点を検証する上で、鍵となるのが「過去のユーザー行動の推移」である。
歴史を振り返ると、ユーザーは常により強い射幸性を持つ機種、例えば「MAXタイプ」「高継続タイプ」等へと移行してきた。そして、その都度、市場は一定の盛り上がりが生じた。つまり、ユーザーはより射幸性の高いものへと変遷してきたという歴史がある。
この構造を前提にすれば、もし現在の機種が「過去最高に射幸性が高い」とされるのであれば、当然ながら市場の景況感も大きく上昇していて然るべきである。だが実態は逆であり、ユーザー数も稼働も伸び悩んでいる。このギャップをどう捉えるべきか、ここに「射幸性が本当に上がったのか?」という仮説が生まれる根拠がある。
この仮説を検証すべく、当社では従来の「勝ち金額」「アウト」などの外形評価から一歩踏み込み、「Rv(Reward Value)」という体験評価指標を導入している。Rvとは、ユーザーが勝利体験を“納得のある記憶”として保持できたかどうかを測るものであり、「また打ちたい」と思わせる感情を数値化するアプローチである。
このRvを用いて近年の主力機を評価(図参照)したところ、勝ち金額上位に並ぶLT機の多くが、Rvでは平均を大きく下回っていた。一方、2021年登場の『エヴァ15』などは、いまなお高いRvを維持しており、出玉性能(勝ち金額等)では劣るものの、プレイヤーに強く支持され続けているという実態が浮かび上がった。
この結果は明確な示唆を持つ。すなわち、現代のパチンコ機においては、「どれだけ勝ったか」よりも「どう勝ったか」が、プレイヤーの体験満足度を左右しているという事実である。外形的な強さではなく、体験としての“納得感”が支持の鍵となっている。
ゆえに、いま市場が直面しているのは「射幸性が高すぎる」という問題ではなく、「射幸性の誤認」である。スペックの進化がプレイヤー心理に響いていないのであれば、それは機械の“強さ”ではなく、“伝わり方”に問題があるということだ。
射幸性を再定義するならば、数値の高さではなく、「記憶に残る体験」の構造である。この視点の転換こそが、次の一手を見出すための出発点となる。少なくとも、データに耳を傾ける限りは、今はそう判断するほかない。
◆プロフィール
𠮷元 一夢 よしもと・ひとむ
株式会社THINX 代表取締役。データアナリスト・統計士・BIコンサルタント・BIエンジニア。文部科学省認定統計士過程修了。現在は、IT企業のシステム開発やソフトウェア開発にアドバイザリーとして従事しながら、パチンコホール・戦略系コンサルタントとして活動。