パチスロ市場では「ボーナストリガー」(以下、BT)、パチンコ市場では「ラッキートリガー3.0プラス」(以下、LT3.0プラス)と呼ばれる新たな遊技仕様が、今後ローンチされる予定である。
これらの導入構想は、単なるスペックの更新にとどまらず、新たな遊技体験の創出と、遊技者層の拡張を目的とした戦略的布石と位置づけられる。遊技機メーカーならびに業界関係者にとっては、これを契機としたユーザーの再活性化に大きな期待が寄せられている。
とりわけ注目すべきは、これらの仕様が既存ファンへの新しい遊技価値の提供だけでなく、これまで離脱していた層――いわゆる「休眠層」の呼び戻しを視野に入れている点である。新たなスペックに触発されてホールに再来店する層が一定数見込まれるなか、ホール運営側としては、こうした「復活顧客」の動向に着目することが不可欠である。
実際、顧客行動データの分析に基づけば、復活顧客は「新規顧客」や「継続来店顧客」と比して、一来店あたりの平均投資額が高い傾向にある。この傾向は、単なる消費意欲の差ではなく、「目的遊技性」(※目的をもった遊技を行う性質)の存在によって説明可能である。
つまり、復活顧客は何らかの強い動機づけ、たとえば「話題の新仕様を体験したい」「懐かしのコンテンツに再会したい」といった理由によって来店しており、その関心の高さが結果的に投資金額の増加という形で表出しているのだ。
ホールが対処すべきは
復活顧客の「定着化」
しかしながら、この目的意識の強さは裏を返せばリスク要因でもある。復活顧客は、一度目的を達成するとその後の来店頻度が急減し、翌月には離反する可能性が極めて高い。これはデータで裏付けられたファクトであり、この行動パターンは、満足による“完了感”が強く、継続的な関係構築を阻害する傾向にあるため、ホールにとっては機会損失にもつながり得る。
ゆえに、ホールが今後対処すべきは、新仕様の導入を契機とした単発的な集客に留まらず、復活顧客の「定着化」に向けた施策設計である。たとえば、来店直後にその顧客の満足要因を可視化するアンケート設計、類似スペック機種の提案、または期間限定の再来店インセンティブなど、遊技の文脈に沿った連続的価値の提示が求められる。
「BT」や「LT3・0プラス」のような新仕様の登場は、確かにマーケットにおける一時的な注目を集める。しかし、より重要なのは、その注目をどのように“継続的な売上構造”へと接続していくかである。業界の再成長を志向する上では、データドリブン(数値で裏付けされた)な顧客理解と、行動変容を促すフィードバック設計の重要性が、今後ますます高まっていくだろう。
なお当社は、こうした復活顧客の動向把握やリテンション(再来店)強化に資するCRM分析(顧客情報を使った分析)の高度化を専門領域としている。クラウドベースのデータ基盤を構築し、顧客単位の行動データを可視化するシステムを提供。さらに、得られたデータから導かれるインサイトに基づき、戦略的アクションプランの立案支援や経営判断に直結する意思決定支援まで、一貫したサポートを行っている。
パチンコ・パチスロ業界の未来をデータで再設計したい企業様におかれては、ぜひ一度ご相談いただければ幸いである。「顧客を知ること」は、収益を変える第一歩である。
◆プロフィール
𠮷元 一夢 よしもと・ひとむ
株式会社THINX 代表取締役。データアナリスト・統計士・BIコンサルタント・BIエンジニア。文部科学省認定統計士過程修了。現在は、IT企業のシステム開発やソフトウェア開発にアドバイザリーとして従事しながら、パチンコホール・戦略系コンサルタントとして活動。