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実機の周りに広がる映像が、『L東京喰種』とMR技術を組み合わせた仮想映像。パチスロのゲームに連動してこれらの仮想映像がゴーグルの中に広がっている。
昨年開催された人気TVアニメ「東京喰種トーキョーグール」の“体験没入型”展示会「東京喰種EX.」に、『L東京喰種』とMR(ミックスド・リアリティ)技術を組み合わせた「MRパチスロ」が出展された。MRとは、現実空間とMRゴーグルが作り出す仮想空間を融合させ、現実空間上に仮想の映像や演出などを可視化できる技術。MRゴーグルをかけてパチスロを遊技すると、ゲームの展開にあわせて東京喰種のオリジナル映像や演出が視界の中に360度広がるというもので、圧倒的な没入感や新しいエンターテイメント性を創造している。
同展示会でデモ機としてお披露目されたMRパチスロだが、今後の実用化はあるのか? また、MR技術との融合による新しいパチンコ・パチスロの可能性とは? MRパチスロを手掛けたフィールズ株式会社商品開発本部の藤田顕生取締役本部長、同・森本訓生クリエイティブリーダー、メタフィールド株式会社小北哲平取締役に、MRパチスロを開発した経緯やMRを組み合わせた遊技機の未来について話を聞いた。
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遊技機とMRの融合は業界にどのような可能性をもたらすのか、開発を進めるキーパーソンに聞いた。左から、森本氏、藤田氏、小北氏。
――東京と大阪で開催された“体験没入型”展示会「東京喰種EX.」にMRパチスロを出展されました。反響はいかがでしたか?
森本 一般ファンの人もすごく喜んでくれて、単純にコンテンツとしてMRパチスロを楽しんでもらえました。同時に「東京喰種のスロットが出るんだ」ということもSNSなどで話題になり、少しバズッた感がありました。
――今回、このMRパチスロを開発した経緯を教えて下さい。
藤田 まず弊社の背景から説明しますと、3年前くらいに開発体制を見直し、グループ会社のスパイキーや七匠ブランドの遊技機開発をより強化していく方針を掲げました。ちょうどそのタイミングで、TVアニメ「東京喰種トーキョーグール」という大型IPをパチスロ化することになり、パチスロとして成功させるだけでなく、これから先のフィールズの遊技機のイメージや期待感につながるような取り組みができないかと考えていました。
その一方で、今の業界は市場規模が縮小し、ファンやパチンコホールが減少しています。我々としても市場の縮小を食い止めたい、市場を拡大したいという思いを持っており、一般のお客さんにパチンコホールに足を運んでもらうキッカケを作っていきたいということを常々議論していました。
――ファンを増やしていくことは業界にとって大きな課題です。
藤田 特に若年層をターゲットとした商品やプロモーションが必要だと考えています。ただ、これだけエンターテイメントや余暇が多様化する中で、遊技機の性能だけで今の若い人たちにパチンコ・パチスロを選択してもらうのはちょっと難しいとみています。
では、何で若者を惹きつけるのか。その一つは、IPだと思っています。しかし、IPだけでも結局、他のゲームや動画などいろんなコンテンツがあるので注目されません。選んでもらうためには、「パチンコってこんなことをやっているんだ!」「面白そうだ!」と感じてもらうことが重要だと思います。
そういう意味では、今のパチンコホールの環境も新しい取り組みや仕掛けが必要だと思いますが、そうした大掛かりなことをやるには時間がかかります。まずは「パチンコってこんな風になるんだ」という現実的な体験をしてもらったほうが、イメージもしやすく、リアルに業界への期待感、可能性を感じ取ってもらえるだろうと考えました。そうした仕掛けのタイミングとして、今回の『L東京喰種』はIP的にもマッチしていましたので、ここで新しい取り組みをやっていこうとなったわけです。
――そこで取り入れたのが「MR」だったと。
小北 将来のエンタメや余暇がどうなっていくのか、そうした議論をする中で注目したのが「デジタルを使った拡張性」です。未来の遊技機はいろんなオブジェクトが拡張されて、もっとIPに没入ができるようになるのではないかといった議論の中から、現存するデバイスの「Meta Quest3」(MRゴーグル)を使って、現実の遊技機の筐体デザインを活かしつつ、そこから演出が拡張されるようなことができないか、ということで試し始めました。
――様々なデバイスがあると思いますが、なぜMRだったのですか。
小北 VR(バーチャル・リアリティ)は全く別の仮想世界に行ってしまうので、リアルの筐体の良さなどが活かせません。MRが正解かは分かりませんが、現実を残したほうがいいのではないかという仮説で動き出しました。
藤田 それと、VRだとパチンコ店に行かなくても体験できてしまいます。やはりパチンコホールに足を運んでもらうことが大事ですし、何百台という規模で遊技機が並んでいるのは、他の産業やエンタメにはないパチンコホールならではの特色です。そのリアルを楽しんでもらうには、MRのほうが良いのではないかと考えました。
――どのようにMRパチスロを開発していったのですか?
小北 TVアニメ「東京喰種トーキョーグール」は、主人公の背中から赫子(かぐね)と呼ばれる触手のようなものが出てくるのですが、それを身にまとって遊技できたら面白いのではないかという話を開発段階でよくしていました。ちょっとダークな雰囲気でバトルも多々ありますので、ゲームのエフェクトのようにパチスロを打っていくと、そこからいろんなものが飛び出していくような演出などを散りばめました。
レバーを叩いた瞬間に、信号がMRゴーグルに送られるため、リアルタイムで上乗せゲーム数の数字が眼の前に落ちてきたり、何かに当選するとエフェクトがドーンと360度で映し出されたり、そんな演出や仕掛けなども開発しました。
森本 「東京喰種EX.」に出展したMRパチスロは一般の人が触りやすく、感動しやすいように作ったものでしたが、そこから更にバージョンアップをさせています。パチスロの経験者を対象にするのであれば、演出などもよりパチスロファンが楽しめるものを開発できます。
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MRゴーグルを装着したまま遊技が可能で、ゴーグル内ではゲームの状態に連動した仮想映像が映し出されている。
――MRパチスロの実用化にあたって課題などはありますか。
藤田 いまの構成そのままでは実用化は難しいと考えています。遊技機の規則の課題もありますし、組合での申し合わせなども必要になってくると思います。ユーザーのほうでもゴーグルを装着することに対する抵抗感がありますし、ホール内で実用するとなった場合にMRゴーグルを誰がどこに用意しておくのか、といった問題もあります。
ただ、開発していく中で思ったことは、MRは、実物からあらゆるモノが拡張されていきますので、自分の知っているパチスロがどんどん広がっていく感じがあります。演出が筐体の中だけでなく外でも展開できるという点は、開発者目線で驚きがありました。
――MRパチスロの今後を含め、今後の方針を教えて下さい。
藤田 今回のMRパチスロはまだまだ「プロトのプロト」のような位置付けで、ようやくスタートラインに立ったという認識です。将来的には実用化も見据えていきますが、まずは業界の方々に業界の未来を想像してもらえたらいいと考えています。
自動車産業や他産業ではコンセプトカーやコンセプトマシーンなど、いろんなモノを試作し、その会社や産業の未来や可能性を業界内外に発信しています。業界もそうした発信をし続けていくことが大事だと思っています。そういう意味では、MRパチスロはその取組みの一発目であり、今年がその元年と考えています。
――MRパチスロを通して、業界にはまだまだ可能性があるんだということを内外に発信したいですね。
藤田 できれば、遊技機の未来だけでなく、パチンコホールの未来や在り方も考えていきたいと思っています。「こんな環境だったら面白いのでないか」「こんな島空間だったらもっとすごくなるのではないか」といったことまで発展させていきたいです。
実際に今のパチスロ島にMRパチスロを取り付けてもやっぱり無理が生じると思います。それならホールの遊技環境を含めて、これまでの常識に捉われない、新しいカタチを提案した方が業界の明るい未来を描けるのではないかと思っています。
まずは第一弾としてTVアニメ「東京喰種トーキョーグール」のMRパチスロを開発しましたが、これからもチャレンジしていきたいと考えています。
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昨年の“体験没入型”展示会「東京喰種EX.」に展示されたMRパチスロ。
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実機のレバーを叩くと、筐体の周りの仮想映像がゴーグル内に出現。
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現実(リアル)と組み合わせて様々な仮想演出、映像が広がり、IPの世界観に没入できるのがMRの特徴。
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