2025年の大阪・関西万博は、開催前こそ費用問題やマスコット批判などネガティブな声が目立ちました。しかし実際には来場者数が想定を大きく超え、「思った以上に楽しめた」と高い評価を得ています。成功の要因は、強烈なブランディングや段階的なプロモーション、さらに来場者の心理を意識した仕掛けにありました。そして何より、展示やイベントそのもののコンテンツ力が高かったことが、最終的な満足度につながったと言えるでしょう。(文=ジェイさん@発信する遊技機クリエーター/J-BEAT合同会社代表)。
一方で、パチンコ・パチスロ業界は今「どこのホールでも同じ機種が並ぶ画一化」「射幸性に偏った訴求による期待とのギャップ」「認知から来店につながらないプロモーション」など、『体験の壁』に直面しています。今回の大阪・関西万博の成功事例から、この壁を乗り越えるためのヒントを考えていきたいと思います。
遊技機業界が抱える「体験の壁」
現在の課題は大きく3点に整理できます。
①機種の画一化
どこのホールでも遊技できる機種ラインナップがほぼ同じ。
②射幸性依存のプロモーション
「一撃性能」「高純増」など出玉性能に特化した強い訴求は一時的に注目こそされますが、SNSでは期待と実体験のギャップによる落胆の声が広がりやすく、逆効果となるケースも。
③ターゲット拡大の不徹底
若年層や未経験層への取り組み(PACHI-PACHI-7など)はあっても、現場レベルで体験に結びつく仕掛けが不足。認知はされても来店につながりにくい。
大阪・関西万博の成功要因
そんな中、今回万博が成功した背景には次の要素がありました。
・強烈なブランディング
⇒公式キャラクター「ミャクミャク」は批判を逆手に取り、大きな話題を呼び、ブランドの象徴となりました。
・段階的なプロモーション
⇒初期は革新性、中盤は追加展示、終盤は「閉幕間近」でFOMO(見逃し恐怖)を刺激。時間軸に応じた訴求が来場を後押ししました。
・ターゲット拡大の仕掛け
⇒著名人アンバサダー、子ども向けプログラム、企業や市民参加型の「TEAM EXPO」で幅広い層を巻き込みました。
・自然に行動を促す仕掛け
⇒混雑するエスカレーターに流れるライトを設置し「横並びで立つ」という行動を無言で誘導しました。来場者が気づかないうちに快適な行動を取れるといった自然な動線が設計されていました。
・高いコンテンツ力
⇒どれだけプロモーションが巧みでも、肝心の展示が平凡なら満足は得られません。万博ではパビリオンの演出・体験そのものが高品質であり、それが口コミのポジティブ拡散につながりました。
ホール運営に応用できるヒント
これらの要因は、そのまま業界にも応用できます。たとえば以下のようなものです。
•体験差別化
同じ機種でも、島のデザインや店舗独自の装飾・演出で「この店ならではの体験」を作る。
•訴求の再設計
導入期・安定期・撤去期で訴求を切り替え、認知から来店、リピートの流れを強化。
•新規動線の整備
初見でも迷わない案内表示や、SNS施策と現場とのつなぎの整備。
こうした視点は、実際に万博のような大規模イベントやエンタメ施設に足を運び、自分の体で体験するからこそ得られるものです。 「人をどう惹きつけ、どう動かし、どう満足させるか」という問いに対して、遊技機業界にも多くのヒントを与えてくれます。
まとめ
関西万博の成功の大前提として高いコンテンツ力があったからこそ、来場者の満足につながりました。つまり、遊技機業界においても引き続きメーカーが高品質なプロダクトを市場に投入し続けることは当然の大前提です。
その上で、各ホールが「体験の設計」を独自に工夫できるかどうかが次の分岐点になります。機種構成の画一化や認知から来店につながらないなどといった体験の壁に直面する今こそ、今回の万博の事例に学び、「特別な体験を持つホール」として差別化していくことが、業界全体の成長のヒントになるのではないでしょうか。
◆プロフィール
・ジェイさん@発信する遊技機クリエーター
J-BEAT合同会社代表
発信するプロ遊技機クリエーター兼ライター。過去遊技機メーカー3社で勤務。在籍中に10数機種の遊技機開発に携わる。現在は法人を経営しつつ、フリーのクリエーターとして遊技機開発に従事。また、メーカー所属では出来ない発信、評論活動を行っている。
X(旧Twitter):https://twitter.com/jsan65536