今回は、ヒット機種の影にある“射幸性”という見落とせない要素について解説したいと思います。
パチスロの新たなスペックとして、6月から市場に導入され始めた「ボーナストリガー(BT)」付き機種。多くのホール関係者やプレイヤーが注目していましたが、現時点で目立った成功機種は見られていません。
もちろん、BTという仕組みそのものが否定されているわけではありません。一定区間中に条件を満たすと発動する「報酬型トリガー」という設計は、夢もあり、ゲーム性にもメリハリがつきます。「うまく機能すれば確かに面白い」と多くの関係者が期待を寄せていました。
しかし、実際には稼働面でも中古価格面でも「伸び悩み」という表現が妥当な状況です。この背景には、スペック設計、特に「メダル単価の低さ」があります。
BTは「ライト級」の戦い
たとえば、BT搭載機として注目された『LBヱヴァンゲリヲン〜約束の扉〜』について、私は「Aタイプの延長線上にある」という見解を持っています。これには理由があります。AT機が主流になって以降、パチスロ全体のメダル単価は上昇を続け、マイルドな機種でも約3円、射幸性の高い機種では4円以上に達しています。
一方、パチンコではハイミドル、ライトミドル、ライトなど、確率帯ごとに分類されており、これはそのまま玉単価に比例します。
パチスロはこれと異なり、Aタイプ・AT機・ART機といったボーナス形式で分類されており、BT搭載機は今のところ、Aタイプ的なゲーム性のものが中心です。つまり、BT機はライトミドル~ライトに相当する「低単価ゾーン」に位置しており、メダル単価という面でハンデを抱えている状態なのです。
パチンコのLTとの決定的な違い
最近のパチンコでは、ラッキートリガー(LT)によってライトミドル機がハイミドル機並みの玉単価を実現し、一定の成果を挙げ始めています。
つまり、「低単価スペックで高出力を目指す」という発想が、LTによって可能になっているのです。しかし、現状のパチスロBT機には単価を引き上げるほどの「出玉パワー」がありません。
BTという「もう一段階強くなる契機」を用意していても、ベース出力がAタイプ並であれば、プレイヤーにとっては「夢の仕組みがあるのに、夢に届かない」という評価になってしまうのです。
成功の鍵は「メダル単価3円以上」
結局のところ、単価の高い機械こそが実績を残しやすい土壌にあるのが現在の市場です。
本当の意味でBTが成功したと評価されるには、BTの導入によってメダル単価がAタイプの域(2円前後)を超え、3円程度に引き上げられるような機種の登場が不可欠でしょう。
実際、過去に成功を収めた多くのAT機はメダル単価が3円以上で設計されており、設置期間・稼働・中古価格ともに高水準を維持してきました。
現行ルールの範囲内でそうしたBT機が開発されるかは不透明ですが、そうでなければ、BTは今後も「Aタイプの延長線上」という枠から脱却できないまま、次第に埋もれていく可能性もあります。
今後のカギを握る視点とは
BTは決して悪い仕組みではありません。しかし、「新たな仕組み」だけではなく、その仕組みが成立するための土台=単価設計が伴ってこそ、プレイヤーに支持される「武器」になります。
現行のルール内で、新たな仕組みを利用した、出玉性能を大きく引き上げる設計――。
BTが真に跳ねるために、いま必要なのはそこなのではないでしょうか。
◆プロフィール
小島信之(こじまのぶゆき)
トビラアケル代表取締役
2018年まで首都圏、静岡、大阪に展開するホール企業で機種選定を担当。2019年に独立し、その分析力を活かしエンタープライズの全国機種評価等を開発。現在はメーカーの遊技機開発、ホールコンピュータの機能開発など、幅広い分野に携わり、変態的なアイディアを提供している。馬と酒とスワローズをこよなく愛する。