猛暑にはじまる新連載です。この連載では、ホール企業が「AIをどうやって活かしていこうか」と七転八倒しながら、ときに笑い、ときに泣き、それでも前に進んでいく「ホール営業×AI」というチャレンジをお届けしていく予定です(文=髙橋和輝/ピーメディアジャパン代表取締役)。
記念すべき連載第1回のテーマは、「7月営業の総括」です。とりわけ、令和7年7月7日は、全国のホールにとって非常に重要な営業日となりました。今回は、この1日を取り上げ、「AIを活用すれば、どこまで営業分析を深められるのか」を検証してみました。
まず、AI分析で欠かせないのが、インプットする情報の質と量です。今回AIに入力したデータは、次の通りです。
・自店舗および競合店舗の営業成績
・新台導入機種と価格やスペック情報
・イベントカレンダー
・SNS(X)の投稿内容および投稿時間
・機種レイアウト
・家賃・人件費・広告宣伝費
そして、インプット情報をもとにAIに対して「どのような問いを立てるか」が重要になります。いわゆる“壁打ち”の作業です。たとえば、以下のような質問を投げかけました。
「7月7日の営業は、今年1月以降の“7のつく日”と比べてどうだったか?」
「競合店舗の動向に対して、自店舗の戦略は効果的だったか?」
こうした問いにAIが答えることで、より深い示唆を得ることができます。ここで強調したいのは、壁打ちのスキルがそのままAI活用のスキルに直結するという点です。単なる出力にとどまらず、「問いと答えを重ねていくこと」で、分析対象への理解が深まっていきます。
また、AI活用のもう一つの強みはスピードです。今回の分析は、従来2時間ほどの作業でしたが、AIの活用により1分未満で完了する感覚があります。
では、具体的なアウトプットを見ていきましょう。上記の問いに対しAIは、次のような改善提案を提示しました。
・特定日における粗利調整
・差別化戦略の再構築
・競合店舗の施策分析と学習
さらに、製品ポートフォリオマネジメントの視点で、売上・アウト・粗利などの指標から、機種ごとの位置づけ変動を一覧化してくれました。まず『スマスロ北斗の拳』は「人気機種かつ『花形』『金のなる木』に位置付け/特定日に設定をアップすることで全体の稼働増を狙えます」と分析しています。
さらに、『ディスクアップ』や『頭文字D』もAIに取り上げられ、「いずれも『金のなる木』と評価/特別な出玉性能がなくとも安定した稼働を維持/目移りしやすい動線に配置することで、次の遊技選択肢として機能」との見解を示しました。AIが実際のホール運営に即した提案を行う点は非常に興味深いですね。

ホール営業者の問いにAIが回答することで、より深い示唆が得られる。ポイントは、AIの回答に対し、さらに問いを重ねることで、分析対象の理解が深まる点。いわゆる“壁打ち”のスキルが、AI活用のスキルに直結すると言って良い。
そして最後に大切なのが、営業の振り返りを「記録」として残すことです。今回のように、「どんな仮説を立て、どんな営業を行い、どんな結果となったか」という流れをテキストや音声で蓄積(※)することは、今後の大きな財産です。
こうした試行錯誤を繰り返すことで、ホール営業は「勘と経験」から「仮説と検証」へと進化していく過程こそが、AI活用で得られる果実かもしれません。
※=当社が開発中のAIシステムは、AIそのものには営業データベースを直結させず、セキュリティと運用効率の両立を重視しAIとは別プロセスでSQLを実行する構成を採用しています。ChatGPTのような汎用AIではなく、特化型AIと業務データベースを並走させる形で、慎重かつ柔軟に実装を進めています。
◆プロフィール
髙橋和輝
株式会社ピーメディアジャパン代表取締役。大前研一ビジネススクール出身。18歳から現場一筋で、ホール企業勤務を経て、コンサルタントとして独立。業界初のホール企業向けサブスクサービスを12年運営。現在はパチンコ特化型BtoBプラットフォームを展開(2024年取引額約6.5億円)し、ホール営業×AIを開発中。